最高裁の最新判例の紹介のあり方について


適時に最高裁のホームページ以上の情報を提供できるか?


最高裁のホームページには,判例情報というページがあり,判例検索ができるだけでなく,最新の判例情報も紹介されており,非常に便利である。

たとえば,最近,「退職金減額『事前説明』が必要 信組訴訟で最高裁初判断」等の見出しで新聞でも大きく報道された,最高裁平成28年2月19日判決を取り上げてみよう。

最高裁のホームページでは,この判決は,その全文にリンクが張られた上で,以下のような要約がなされている。

  • 裁判要旨:
    • 1 就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無についての判断の方法
    • 2 合併により消滅する信用協同組合の職員が,合併前の就業規則に定められた退職金の支給基準を変更することに同意する旨の記載のある書面に署名押印をした場合において,上記の変更に対する当該職員の同意があるとした原審の判断に違法があるとされた事例
  • 参照条文:〔空白〕

しかし,以上のような情報だけでは,この判決で問題となった肝心の事実関係がよくわからない。その上,学術的には,非常に重要な参照条文の欄が,空白のままである。

確かに,事実関係も,参照条文も全文をよく読めば,判決中には出てくるのであるが,全部をいちいち読まなければならないとすれば,判例紹介としては,意味をなさない。

この二つの点(事実関係の要約,および,参照条文の追加)こそが,このWebサイトで行う最新の判例紹介の「売り」ということになる。


事実関係と参照条文の付加が,このサイトの「売り」となる


最高裁のホームページの「最近の判例一覧」で欠けているのは,今回の「合併前の就業規則どおりの退職金を請求した事件」を見てもわかるように,以下の二点が不十分であることである。

  • 第1に,判例の事実関係が要約されていない。
  • 第2に,参照条文が欠落したり,十分にフォローされていない。

したがって,日本民法典研究支援センターでは,『日本民法典』を編集する過程で作成される判例データベースには,事実関係の要約と当事者の関係が明らかになる図を作成するとともに,参照条文に関する正確な情報を追加することにする。

今回の判例について,TKCのLEX/DBでは,今回の判決に関する事実関係が,概略,以下のように要約されている(長い文章となっており,読みにくいため,一部,文章を分割し,わかりやすくしている)。

A信用組合の職員であったXらが,同組合とY(平成16年2月16日に変更される前の名称は,B信用組合)との平成15年1月14日の合併によりXらに係る 労働契約上の地位を承継したYに対し,合併前の就業規則に基づいて退職金の支払を求めた。しかし,原判決は,Xらの請求をいずれも棄却したため,Xらが上告した。

最高裁は,合併により消滅する信用協同組合の職員が,合併前の就業規則に定められた退職金の支給基準を変更することに同意する旨 の 記載のある書面に署名押印をした場合において,上記の変更に対する当該職員の同意があるとした原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反 があるとし,原判決を破棄し、更に審理を尽くさせるため,原審に差し戻した(実質的なX勝訴)。

このような事実関係の要約が伴って,初めて判例紹介といえるのであり,このような事実関係の要約を追加して,最新の最高裁判決を紹介することは,このWebサイトの特色となりうるであろう。

つぎに,参照条文については,判決の全文をよく読むと,本件について,最高裁は,改正前の労働基準法第93条(現行労働契約法12条に該当する)を参照し,かつ,労働契約法第8条,第9条にも言及している。

し たがって,最高裁のホームページ(TKCのLEX/DBも,この点については,同様である)のように,参照条文の項目を空白のまま放置するのではなく,労働契約法 8条(労働契約内容の変更),労働契約法第9条(就業規則に よる労働契約の内容の変更),労働基準法旧第93条(労働契約法第12条(就業規則違反の労働契約))を参照条文として掲載すべきであろう。

このような地道な作業を行い,会員に情報提供することが,『日本民法典』を編集することとともに,日本民法典研究支援センターの「売り」のひとつとなると思われる。