最高裁の国民審査の実効性を高める方法について


最高裁の女神像撤去運動

最高裁判所の裁判官の国民審査を活性化するための方法論(試論)


問題の所在

最高裁は,わが国の最高権力のひとつであり,「権力は腐敗に向かう」という格言どおりに,著しく腐敗しているといわれています(瀬木比呂志『絶望の裁判所』講談社現代新書(2014/2/21))。

最高裁判所の腐敗を防止するためには,最高裁判所裁判官国民審査法(以下,「国民審査法」と略称する。)を改正し,国民が最高裁判所の裁判官を実質的に罷免できることができるようにする制度へ変更するのがもっとも有効な方法でしょう。

なぜなら,現在の国民審査法では,罷免すべき裁判官に×印をつけるという,最高裁判所の裁判官にもっとも有利な「陶片追放」型の投票様式を採用していますが,通常の投票方式である罷免を可としない裁判官の記名投票,または,罷免を可としない裁判官に○印をつける投票様式に変更すれば,裁判官を確実に罷免することができるようになるからです。

具体的には,国民審査法を以下のように改正すれば,最高裁の裁判官の国民に対する上から目線がなくなり,政府よりの目線,大企業よりの目線から,国民全体に対する目線(国民救済の視点)へと変更されることになると思われます。

最高裁判所裁判官国民審査法(改正私案)

第14条(投票用紙の様式)

②投票用紙には、審査に付される各裁判官に対するの記号を記載する欄を設けなければならない。

第15条(投票の方式)

審査人は,投票所において,罷免を可としない裁判官については,投票用紙の当該裁判官に対する記載欄に自らの記号を記載し,罷免を可とする裁判官については,投票用紙の当該裁判官に対する記載欄に何等の記載をしないで,これを投票箱に入れなければならない。

しかし,最高裁判所に甘い国会議員は,このような改正には賛成しないと思われます。したがって,国会議員による国民審査法の改正を待っていたのでは,最高裁の裁判官が,国民目線でものごとを考えるようにするという,最高裁の改革を実現することはおぼつかないでしょう。

そこで,最高裁のすべての裁判官の目線が国民に向けられるような改革運動を,個々の国民が立ち上がり,最高裁の改革のために運動を起こすことが必要でしょう。

最高裁改革の方法論としての「最高裁の女神像撤去運動」の趣旨

最高権力のひとつとしての最高裁の腐敗を除去し,今後の腐敗を未然に防止する象徴的な行動として,最高裁に鎮座している奇妙な女神像を撤去する運動を開始することを提言したいと思います。

その理由は,法の女神は,本来ならば,第1に,平等と公平を保つために目隠しをし,第2に,公正かつ衡平を担保するために天秤を掲げ,第3に,必要とあらば強制力を行使しますが,そのような権力行使の濫用を防止するためには,剣を下げて持つべきです。

ところが,最高裁の女神像は,以下のように,法の女神の理想像とは正反対の姿をしています(http://www.geocities.jp/wpo_explorer/exp2/003.jpg)。

ThemisInSupremeCourtOfJapan003

 

  • 第1に,目隠しをせずに目を見開いており,これは,偏見と書面主義を表しており,弁論主義に違背しています。
  • 第2に,最高裁の女神像は,高く掲げるべき天秤を降ろしており,これは,公正・衡平をないがしろにするものであり,法の精神に反しています。
  • 第3に,最高裁の女神像は,高く掲げるべき天秤を降ろす替わりに,剣を高く掲げて,官僚主義的な権力主義をあらわにしており,権力の濫用の禁止に反しています。

以上の理由に基づき,最高裁の女神像は,即刻,撤去し,アメリカ合衆国の連邦裁判所の女神像(ダニエル H. フット『名もない顔もない司法-日本の裁判は変わるのか』NTT出版(2007/11/20)41頁)等の世界各地の女神像を比較検討し,わが国において,特に必要とされる「偏見」を取り去り,かつ,「弁論主義」を強調するために「目隠し」をし,「衡平」を確保するために,「天秤を高く掲げ」,「権力の濫用を防止する」ために「剣を降ろした」女神像へと変更すべきであると考えます。

最高裁の女神撤去運動の方法論

日本国憲法第15条第1項は,「公務員を選定し,及びこれを罷免することは,国民固有の権利である。」と規定しています。

また,第79条第2項,および,第3項は,「 最高裁判所の裁判官の任命は,その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し,その後10年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し,その後も同様とする。前項の場合において,投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは,その裁判官は,罷免される。」と規定しています。

ところが,これらの規定は,形骸化し,実効性を完全に失っています。そこで,この規定を活性化する試みのひとつとして,上記の「女神像撤去運動」の趣旨を活用することが必要です。

themisすなわち,最高裁の女神像は,目隠しをせず,天秤を高く掲げず,剣を振り上げるという,本来の法の女神とは正反対に,偏見・不公平・権力の濫用を助長することを象徴している女神像は,速やかに撤去されるべきであり,本来の法の女神像に変更すべきです。

それにもかかわらず,この女神像を撤去せずに放置している最高裁の裁判官たちは,人権感覚が麻痺しており,法の番人として不適格であり,すべて罷免されるべきです。

したがって,最高裁の裁判官の国民審査においては,この女神像撤去運動に賛同する市民は,最高裁の女神像が撤去されるまで,審査に付された裁判官すべてに×を付ける運動を開始することが必要と思われます。

運動の手段の濫用の防止のための方策

国民審査に際しては,この運動に参加するすべての市民は,最高裁の女神像が撤去されるまで,女神像の存続を是認しているとみなされる最高裁の裁判官全員に対して,×をつけるべきですが,最高裁の裁判官の中には,市民のために良心的な判決を下している裁判官もいるはずです。

そのような裁判官を保護する方法としては,「最高裁の女神像撤去運動」に賛同する会員のうち,市民のために適切な判決を下している裁判官であることを知った市民が,その裁判官について,×をつけることを控えることは一向に差し支えありません。

もっとも,このような運動は,現段階では夢物語に過ぎませんが,最高裁の腐敗がさらに進行し,国民がそのことに危機感を抱くような時が到来すれば,このような運動の提言は,社会的貢献につながるのではないかと,私は考えています。

書評:森信三『若き友への人生論』致知出版(2015/12/25)


森信三『若き友への人生論』致知出版(2015/12/25)


本書の概要

生涯,人間の生き方を問い続け1992年に97歳でなくなった著者が若い世代(65歳以上のシニア世代を含む。89歳で『全集』の執筆を完結した著者にとって,シニア世代は若い世代である)に対して,「二度とない人生」を幸福に過ごすためには何をなすべきかを語りかけた啓蒙書です。

97歳まで生きた哲人だけに,人生のそれぞれの段階について,以下のように,どのように生きるべきかを詳しく述べています。

  • 第1期:立志以前(0歳~14歳)
    胎児の段階,生まれてから保育所(幼稚園),小学校,中学校を経て,15歳になるまで)の教育のあり方が述べられています。
  • 第2期:基礎作りの時期(15歳~29歳)
    15歳から30歳になるまでに「二度とない人生を覚悟して生きる自覚」を育てるための方法が示されています。
  • 第3期:活躍期(30歳~59歳)
    30歳~34歳までの準備期,35歳~39歳までの信用確立期,40歳代の勇断を身につける時期,天命を自覚する50歳代の生き方について述べられています。
  • 第4期:人生の結実期(60歳~69歳)
    定年を迎える前にすべきことが示されています。
  • 第5期:人生の晩年(70歳~)
    すべての人が後世のために自伝を書くべきことが論じられています。

本書の特色

自分の人生の意味を知ることが「二度とない」人生を幸福に生きるために必要ですが,それが,実は,難しい理由が以下のように的確に述べられています(43頁)。

それでは,自分の天命を知るためには,どうすればよいのでしょうか。そのヒントは,好き」,「得手」,「得意」という事実によって啓示されていると筆者は述べています(47頁)。

われわれが,他人から命ぜられて使いに出かける場合には,われわれはその使命について直接知らされるわけであるが,われわれがこの地上に「生」を 受けた場合,われわれはこの地上において,自己の為すべき任務については,何らコトバを以って知らされて来たわけではないのである。

その啓示を頼りに,どのようにしたら「人のために尽くす」ことができるかを考えたときに,幸福な人生を送るための最初の条件が満たされると筆者は述べています(50頁)。

筆者によれば,幸福とは,以下のように,「その人の生活自体が,一個の統一を保っている状態をいう」とされます(200頁)。

わたくしは,幸福とは、さしあたっては、その人の生活自体が、一ケの統一を保っている状態をいうと考えているのである。随ってもしその人の生活の統一が乱れたり、さらには破れた場合は、それは幸福の反対の不幸と考えるわけである。

そして,本書の白眉は,「隠岐の聖者」永海佐一郎博士の言葉である「幸福は最初は不幸の形をして現れるのがつねである」という言葉と,筆者の経験から生じた「神はよりよいものを与えるために取り上げる」という言葉を関連させながら,「不幸をしのぶことで我見が払われ」幸福を手に入れるというプロセスの見事な記述でしょう(215~226頁)。

詳しくは,本書を読んでいただくほかありませんが,一般的な幸福ではなく,「私の幸福とは何か」,「私は,どうすれば,今の不幸から幸福にたどり着くことができるのか」と考えている人にとって,福音となる記述であると思います。

本書の課題

本書の前提は,「人生に二度はない」ということです。だからこそ,一日一日の生活を充実させることが大切であり,そのことが積もり積もって,幸福な人生となるという考え方を採用しています。

しかし,人生で大切なことは,人生のいくつかの場面で,決定的な決断を迫られたときにどのような選択をするかであり,安易な判断をしようとする際に,「もう一度生まれてきたとしても,その判断をするだどうか」というニーチェ風の観点から,その選択をすべきかどうか考え直すということも大切だと思います(本書に対するささやかな異論)。

本書の結論に異論はないのですが,「人生に二度なし」を生き方の基準とするのか,「もう一度生まれ変わったとしても,同じことをするだおろうか」という基準とで,どちらが,有効な基準なのかを,今一度考えてみたいと思っています。

情報の引出しから情報の歴史地図へ


定年退職を前にして思うこと


昨日の2016年3月31日は,私にとっては,記念すべき日になるはずであった。というのも,明治学院大学の定年は,68歳であり,実は,昨日,私は定年退職して,この大学を去るはずだったからである。

ところが,2015年に法科大学院を廃止する代わりに,「法と経営学研究科」を設立して,私が,初代の委員長となったため,その完成年度まで,定年が延長されることになり,私は,もう1年間この大学にとどまることになった。

「法と経営学」とは,経営学と法学の学問分野に生起する諸問題について,経営学と法学の二つの観点から解決する方法を探究することを通じて,究極的には,両者を発展的に融合することをめざす学問である([加賀山・法と経営学序説(2013)1頁])。

それをもう少し具体的にイメージすると以下のような図となる。すなわち,「法と経営学」とは,具体的には,(1)組織自身,(2)金融市場,(3) 労働市場,(4)原材料市場,(5)製品市場,(6)政府関係という六つの学問分野に,法学の学問分野,すなわち,(1)会社法,(2)金融法,(3)労 働法,(4)契約法・知財法,(5)不法行為法・経済法,(6)行政法・税法をマッピングし,あらゆる組織に生起する問題を,法学と経営学の二つの観点か ら解決する方法を探究することを通じて,究極的には,法と経営学を発展的に融合することをめざす学問であるということができる。

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 経営学の学問分野 マッピングする法学の学問分野

もっとも,経営学,法学は,社会の要請に応じてダイナミックに変化する学問分野であるため,上記の図は,現時点での概念を表象するものに過ぎない([斎藤・法と経営学の視点(2014)287頁])。

2015年,明治学院大学大学院にわが国ではじめての「法と経営学」研究科が設立された。この研究科では,その主要科目であるビジネス総論では,法 学の教員と経営学の教員の二人の教員がひとつの教室に入り,経済小説や実際に生じた経営問題,判例を題材について,法学と経営学の二つの視点から問題解決 の方法を提示し,大学院生との間で議論を重ね,大学院生がグループ討論を通じて結論を導くという方法を取り入れている。

明治学院大学法と経営学研究所

 

そこで,来年の2017年3月31日が,私の明治学院大学法学部教授としての人生に終止符を打ち,両親が待ち望んでいる大分県の実家に帰り,新たな人生を歩むことになった。

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定年退職すると,元気がなくなるという話をよく聞くが,私の場合は,幸いにも,実家が農地なので,そこで晴耕雨読の生活を送るとともに,「日本民法典研究支援センター」というインターネットの組織を立ち上げたので,そこでの質疑応答を通じて,法教育の発展に残りの人生を楽しく送りたいと考えている。


明治学院大学での研究・教育活動を振り返る


明治学院大学での11年間を振り返ると,2005年に法科大学院の設立要員として法科大学院の教授に赴任してから9年間は,法科大学院の教授として法曹教育の改革に取り組むとともに,法学研究科の大学院改革に取り組んだ。

2012年5月6日の法科大学院の教授会で法科大学院の募集停止が決定されると,直ちに,5月14日に,経済学部の有志とともに,法科大学院に代わる研究科,後にその名を「法と経営学研究科」とする修士課程の研究科を創設する計画に取り掛かった。この計画は,明治学院大学の大学院改革の一環として位置づけられ,2013年2月22日に学長の諮問に答える答申「新大学院構想について」として公表され,2014年2月19日の連合教授会で承認された。文部省の設置審の審議も乗り越え,2014年10月29日に,「法と経営学研究科」は,わが国で最初の「法学」と「経営学」の双方の視点から問題解決を行うことを目的とする修士課程の大学院として設立が認可された。


大学教授として業績を伸ばすために必要な情報の「引出し」


大学を退職するに当たって,通常は,最終講義を行う。その際には,嫌でも自分の業績を振り返ることになる。

業績が少ないと,自分は大学でなにをしてきたのかと,憂鬱になるに違いない。そうならないうちに,定年退職の最終講義に何を述べるかを早くから考えておくのがよい。

その際には,大学教授は何をすべきかについて,よく考えるのがよい。職業としての研究者を目指す人も,すでに,大学教授になっている人も,自らの評価を厳しく行うためには,杉原厚吉『大学教授という仕事』水曜社(2010)をよく読み,大学教授は,その普遍的な責務として,以下の項目を実践すべきであるというのが私の考え方である。

この本で書かれている大学教授の仕事のうち,大切なものをピックアップすると,以下の3つになる。

  • コンスタントに独創的な論文を作成すること,
  • 独立した研究能力を有する課程博士(ドクター)を輩出すること,
  • 研究を遂行するための外部資金を調達すること

最終講義では,すべての教授が,以上の評価基準に従って,教授としての「自己評価」をすべきであるとすれば,大学教員は,就職したときから,自分の最終講義をするための準備をすればよいことになる。

目標実現するために有用なのが引き出しである。上の三つの項目について,引き出しを作って,日々,業績を蓄積し,いつでも,それを引き出せるようにしておくと,目標を実現するのに役立つ。


物理的引出しからアウトラインプロセッサへ


物理的な引出しは,書類等を入れてしまうと,インデックス以外は見えなくなってしまう。すっきりと整理されてよいのだが,中が見えないために,情報が整理されないままに,埋もれてしまう危険性があり,そうなると,情報の蓄積も進まない。

そこで便利になるのが,アウトラインプロセッサである。この中に情報を入れておくと,見出しだけにすることも,中身を見ることも自由自在となる。

たとえば,私は,民法の体系化の作業をこのアウトラインプロセッサ(OlivieneEditor)を使って行っているが,必要な箇所だけを見ることができ,しかも,どこからでも事由に作業をすることができるので,非常に便利である。

たとえば,民法の全体像を見るときには,見出しのレベルを1,すなわち,編だけを見ることができる。

Civ00All03

第1篇のうち,章だけをみたければ,章までに限定してみることができる。

Civ01General

さらに,条文のレベル,たとえば,1条だけを見たければ,そこに限定してみることができる。

CivilLawMap9s

たとえば,私の利用しているアウトラインプロセッサは,ディレクトリ単位で管理しているので,MS-DOSのコマンドプロンプトで構造を見ることもできる。現在の状況は以下の通りである。

Structure of Civil Code of Japan
├─1 Property law
│ ├─Part1 General provisions
│ │ ├─Chapter1 General principles
│ │ │ ├─Section1 Private and public interests
│ │ │ ├─Section2 Standard of act
│ │ │ │ ├─ Art. 1 al. 2 Principle of good faith
│ │ │ │ └─ Art. 1 al. 3 Prohibition of abuse of rights
│ │ │ └─Section3 Aim and Interpretation of civil law
│ │ │ └─Art. 2 Dignity and equality
│ │ ├─Chapter2-3 Person
│ │ │ ├─Chapter2 Natural person
│ │ │ │ ├─Secction1 Capacity to hold rights
│ │ │ │ ├─Section2 Capacity to legal act
│ │ │ │ │ ├─1. Majorities
│ │ │ │ │ ├─2. Minors
│ │ │ │ │ ├─3. Guardianship
│ │ │ │ │ ├─4. Guaratorship
│ │ │ │ │ ├─5. Assistance
│ │ │ │ │ └─6. Right of counterparty
│ │ │ │ ├─Section3 Domicile
│ │ │ │ ├─Section4-1 Management of absentee property
│ │ │ │ ├─Section4-2 Adjudication of disappearance
│ │ │ │ └─Section5 Presumption of simultaneous death
│ │ │ └─Chapter3 Juridical person
│ │ │ └─1. Establishment of juridical person
│ │ ├─Chapter4 Object of right
│ │ │ └─Classification
│ │ │ ├─1. Tangible or Intangible
│ │ │ │ └─Art. 85 Tangible
│ │ │ └─2. Principal or Appurtenance
│ │ │ └─Art. 88 Fruits
│ │ ├─Chapter5 Legal acts
│ │ │ ├─Section1 General provisions of legal acts
│ │ │ ├─Section2 Manifestation of intention
│ │ │ ├─Section3 Agency
│ │ │ │ ├─1. Condition of agency
│ │ │ │ ├─2. Sub-agency
│ │ │ │ ├─3. Conflict of agency
│ │ │ │ ├─4. Apparent agency
│ │ │ │ └─5. Unauthorized agency
│ │ │ ├─Section4 Void or Invalidity of legal acts
│ │ │ │ ├─1. Void
│ │ │ │ └─2. Invalidity
│ │ │ └─Section5 Conditions and Time limit
│ │ │ ├─Conditions
│ │ │ └─Time limit
│ │ ├─Chapter6 Calculation of period
│ │ └─Chapter7 Prescription
│ │ ├─Section1 General provisions
│ │ │ ├─1. Effect and waiver
│ │ │ ├─2. Interruption
│ │ │ └─3. Suspension
│ │ ├─Section2. Acquisitive prescription
│ │ └─Section3. Extinctive prescription
│ │ ├─1. Long term
│ │ └─2. Short term
│ ├─Part2 Real property law
│ │ ├─Chapter1 General provisions of real property
│ │ ├─Chapter2 Possessory rights
│ │ │ ├─Section1 Acquisition of possessory rights
│ │ │ ├─Section2 Effect of possessory rights
│ │ │ │ └─3. Possessory actions
│ │ │ ├─Section3 Extinction of possessory rights
│ │ │ └─Section4 Quasi-possession
│ │ ├─Chapter3 Ownership
│ │ │ ├─Section1 Extent of ownership
│ │ │ │ ├─Subsection1 Content and scope of ownership
│ │ │ │ └─Subsection2 Neighboring relationships
│ │ │ │ ├─1. Use of Land
│ │ │ │ ├─2. Water streams
│ │ │ │ ├─3. Boundary
│ │ │ │ └─4. Structure on land
│ │ │ ├─Section2 Acquisition of ownership
│ │ │ │ ├─1. Possession, finding and discovery
│ │ │ │ └─2. Accession, mixture and processing
│ │ │ └─Section3 Co-ownership
│ │ │ ├─1. Management of co-ownership
│ │ │ ├─2. Partition of co-owned thing
│ │ │ ├─3. Rights of common with nature of co-ownership
│ │ │ └─4. Quasi co-ownership
│ │ ├─Chapter3-2 Rights of usufructuary
│ │ │ ├─Chapter4 Superficies
│ │ │ ├─Chapter5 Emphyteusis
│ │ │ │ ├─1. Acquisition of Emphyteusis
│ │ │ │ └─2. Extinction of emphyteusis
│ │ │ └─Chapter6 Servitudes
│ │ │ ├─1. Acquisition of servitudes
│ │ │ ├─2. Extinction of servitudes
│ │ │ └─3. Common with the nature of servitudes
│ │ └─Chapter3-3. Real security
│ │ ├─Chapter07 Right of retention
│ │ │ ├─1. Acquisition of right of retention
│ │ │ ├─2. Effect of right of retention
│ │ │ └─3. Extinction of right of retention
│ │ ├─Chapter08 Statutory liens
│ │ │ ├─Section1 General provisions
│ │ │ ├─Section2 Kinds of statutory liens
│ │ │ ├─Section3 Order of priority of statutory liens
│ │ │ └─Section4 Effect of statutory liens
│ │ ├─Chapter09 Pledges
│ │ │ ├─Section1 General provisions
│ │ │ ├─Section2 Pledges of movables
│ │ │ ├─Section3 Pledges of immovable properties
│ │ │ └─Section4 Pledges of rights
│ │ └─Chapter10 Mortgages
│ │ ├─Section1 General provisions
│ │ ├─Section2 Effect of mortgages
│ │ │ ├─3. Disposition of mortgages
│ │ │ ├─6. Statutory superficies
│ │ │ └─7. Joint mortgages
│ │ ├─Section3 Extinction of mortgages
│ │ └─Section4 Revolving mortgages
│ │ └─4. Joint revolving mortgages
│ └─Part3 Obligation law
│ ├─Chapter1 General provisions of obligation
│ │ ├─Section1 Object of obligation
│ │ │ ├─1. Obligation to deliver things
│ │ │ ├─2. Monetary obligation
│ │ │ └─3. Alternative obligation
│ │ ├─Section2 Effect of obligation
│ │ │ ├─1. Internal effect
│ │ │ └─2. External effect
│ │ ├─Section3 Obligation of multiple parties
│ │ ├─Section4 Assignment of obligation
│ │ └─Section5 Extinction of obligation
│ │ ├─Novation
│ │ └─Payment (Performance)
│ ├─Chapter2 Contract
│ │ ├─General provisions
│ │ │ └─General provisions
│ │ │ └─Effect of contracts
│ │ └─Types of contracts
│ │ ├─Deposits
│ │ ├─Lease
│ │ └─Sale
│ ├─Chapter3 Management of business
│ │ ├─1. Ordinary Management of business
│ │ │ ├─Condition of management
│ │ │ └─Effect of management
│ │ └─2. Urgent Management
│ ├─Chapter4 Unjust enrichment
│ │ ├─General unjust enrichment
│ │ └─Special unjust enrichment
│ └─Chapter5 Tort
│ ├─General torts
│ │ ├─1.General torts by single tortfeasor
│ │ ├─2.General torts by several tortfeasors
│ │ └─3.Exemptions for tortfeasors
│ │ └─1.Incapacity for liability
│ └─Special torts
│ └─Liability of traffic accident
│ └─2. Causation
└─2 Family law
├─Part4 Relatives
│ ├─ Chapter2 Marriage
│ │ ├─ Section3 Marital Property
│ │ ├─ Section4 Divorce
│ │ └─Section1 Formation of Marriage
│ ├─Chapter3 Parent and Child
│ │ └─ Section2 Adoption
│ ├─Chapter4 Parental Authority
│ ├─Chapter5 Guardianship
│ │ └─Section2 Organs of Guardianship
│ └─Chapter6 Curatorship and Assistance
└─Part5 Succession (Inheritance)
├─Chapter3 Effect of Inheritance
├─Chapter4 Acceptance and Renunciation of Inheritance
│ └─Section2 Acceptance of Inheritance
└─Chapter7 Wills
└─Section2 Formalities of Wills

業績を着実に,かつ,広い範囲にわたって蓄積し,かつ,いつでも必要な箇所を取り出したり,公表したりしたいのであれば,情報の「電子的引出し」であるアウトラインプロセッサの利用をお勧めする。


情報の引き出しから情報地図へ


法解釈学の究極の目標は,たとえば,地図の比ゆを使って,民法の解釈学に限定して述べるならば,第1に,民法全体を一瞥できるような世界地図,第2に,総則,物権,債権,親族,相続の各編についての,日本地図,第3に,第1編第1章の民法総則に関する分県地図,第4に,民法1条1項に関する住宅地図,さらに加えて,民法1条に関する立法理由,文献,判例,改正案についてのストリートビューというように,民法に関するすべての情報が完備されており,それらを,Google Mapのように,シームレスに閲覧できるシステムを作成し,それを公開することであると,私は考えている。

この目標を達成することを,定年後の私の生活の一部としたい。

面白い本の紹介(鈴木敏文=勝見明『働く力を君に』講談社(2016/1/20))


常識を覆すやり方で次々と成功を導いてきた筆者(鈴木敏文:セブンイレブンの生みの親)が読者に伝える「仕事の仕方」


本書で著者が伝えたい「仕事の方法」


筆者がこの本で社会人になろうとする人々に伝えたいと考えている「仕事の仕方」とは,本書の最後の部分にまとめられており,その要旨は,以下の通りです。

「自分の頭で考え,仮説を立て,答えを導いていく。その際,変わらない視点をもち,ものごとの本質を見抜き,できるだけ難しく考えずに単純明快に発想し,迷わず決断し,実行すること」である。

これだけだと,常識的な「仕事の仕方」だと思われるかもしれませんが,この本の著者は,小型店が大型店に太刀打ちできるはずがないという世間の常識を覆し,セブンイレブン第1号店を出店し,その後,セブンイレブンを日本一のコンビに育て上げ,セブン銀行まで創設した猛者なのですから,「常識どおりの仕事の仕方」と簡単に片付けるわけにはいきません。


著者の「仕事の方法」のついての疑問点とその解答


この結論部分を詳しく検討してみると,その実行は,そう簡単でないことがわかります。

第1に,「自分の頭で考える」ということですが,これが結構難しいのです。他人の「ものまね」ではだめだとしても,素人が自分の頭で考えて,それで玄人に太刀打ちができるのでしょうか。

第2に,「仮説を立て,〔検証を通じて〕答えを導いていく」ということですが,素人が,自分の頭で考えたくらいで,簡単に仮説を立てることができるのでしょうか。また,その仮説を検証するのに,時間とお金を誰かが出してくれるものでしょうか。

第3に,筆者は,「変わらない視点を持つ」ことが大切とされていますが,筆者は,他方では,変化の激しい次代においては,これまでの知識や過去の成功にとらわれず,常に変化する「お客様の視点にたって考える」ことを重視しています。変わらない視点を持つことと,変化する社会の動きにとは別の「変わらない視点」を持って「ものごとの本質を見抜くことが可能なのでしょうか。

第4に,素人が,「できるだけ難しく考えずに単純明快に発想し,迷わず決断し,実行する」などいうことをやったら,それこそ,社会に大混乱が発生するのではないでしょうか。

第5に,そもそも,流行を追って考えがめまぐるしく変化する「顧客の視点」に立つことは,「変わらない視点を持つ」ことと矛盾するのではないでしょうか。また,顧客の視点に立つということと,自分の頭で考えるということも矛盾しているのではないでしょうか。第1から第4までの考えの中に一貫した理念は存在するのでしょうか。

本書は,このような疑問に対して,筆者の常識破りの考え方が,実は,一貫した考え方に基づいていることを明らかにしており,優れた啓蒙書となっています。

詳しくは,本書を読んでいただくほかありませんが,最も重要な観点というのは,惰性に傾きやすい自分と,「お客様の立場に立った」自分とを対立させ,その間でコミュニケーションをとることによって,自分自身を成長させていくという方法であり,その方法を突破口として,以上の5つの点を矛盾なく解決することができることが詳しく語られています。


みんなに反対されることは,たいてい成功し,みんなが賛成することは,たいがい失敗するとは?


ところで,本書では,「みんなに反対されることは,たいてい成功し,みんなが賛成することは,たいがい失敗する」という,これまでの常識を覆す,それでいて,なかなか意味深い文章が何度か繰り返されています。私は,本書を読みながら,その理由を考えてみました。私が考えた回答は,以下の通りでした。

「みんなが反対することは,これまでとは異なる時代を先取りしていることが多いので,たいてい成功する。これに対して,みんなが賛成することは,過去の蓄積に沿っているだけのことなので,時代が変わるときには,失敗する。」

種明かしになってしまいますが,本書の最後の方に,この問題に関する筆者自身の答えが,以下のように披露されています。

みんなが賛成することは,「それを実現する方法がすでに存在しているか,もしくは,容易につくり出せるので,誰もが参入しようとする。」〔その結果,無意味な過当競争(いわゆるレッド・オーシャン)に陥って失敗してしまう〕。
「一方,何かを始めようとするとき,多くの人に反対されるのは,現状ではそれを実現するのが難しいか,実現する方法そのものが容易に考えられないからです。」〔その結果,いわゆるブルー・オーシャンが開かれることになる。〕

「実現するのが難しいか,実現する方法そのものが容易に考えられない」という状況を乗り越えていく方法について,筆者は,以下のように述べています。

「一歩先の未来に目を向け,新しいものを生み出そうとするとき,目的を実現する方法がないなら,自分たちでつくり上げていけばいい。必要な条件が整っていなければ,その条件を変えて,不可能を可能にすればいい。壁にぶつかったときはものごとを難しく考えず,もっとも基本の発想に立ち戻るべきなのです。」

皆さんも,著書を読みながら,「みんなに反対されることは,たいてい成功し,みんなが賛成することは,たいがい失敗する」という命題の意味を,自分の頭で,考えてみましょう。


常識を覆す著者の名言の数々


本書には,先に紹介した「みんなに反対されることは,たいてい成功し,みんなが賛成することは,たいがい失敗する」というような常識とか,社会通念とかを覆す名言が,このほかにも,次々と飛び出します。私が注目したものだけでも,以下のように,従来の常識が次々と覆されていきます。

1.大規模店が隆盛をみせるなか、小型店が大型店と競争して成り立つはずがない。
--でも、本当にそうなのか。商店街の小型店が競争力を失ったのは、本当はスーパーの進出という要因以前に、取り扱う商品が市場のニーズの変化に取り残されていたことや、生産性の低さが根本的な原因で、その問題を解決すれば、小型店と大型店は共存できるはずと、わたし(筆者)は考えました。

2.コンビニでの弁当やおにぎりの発売については、「そういうのは家でつくるのが常識だから売れるわけがない」とみんなにいわれました。
──本当にそうか。 弁当やおにぎりは、日本人の誰もが食べるからこそ、逆に大きな需要が見込まれるはずだと、わたし(筆者)は考えました。

3.セブン銀行についても、「収益源がATM手数料だけで成り立つはずがない」と否定論の嵐です。
──なぜそうなのか。わたし(筆者)は既存の銀行の延長上ではなく、二四時間営業のコンビニの店舗にATMが設置されれば、利便性は飛躍的に高まり、ニーズに応えることができるので経営は成り立つのではないかと単純明快にとらえました。

こんな調子で,世間の常識とか,社会通念とか,これまで誰も疑っていなかった考え方が次々と破壊されていきます。私は,本書を読みながら,指折り数えてみたのですが,合計で,17の常識,社会通念が,筆者によって覆されていると思っています。

みんさんも,本書を読んでみて,自分の常識がいくつ破壊されるか数えてみると興味深いと思います。


 

面白い本の紹介(中村あきら『東京以外で,1人で年商1億円のネットビジネスを作る方法』朝日新聞出版(2014))


一人でネットビジネスを立ち上げる方法を伝授する本です。

自らの失敗とそれを克服した体験(資本20万円(1人)→1年間売り上げなし→年商5億(社員30名)→失敗→借金7,000万円(1人)→年商3億円(2人))に基づいて論じており,自立を目指す人にとって非常に参考になります。

特に,第2章「ノーリスクではじめるネットビジネス」(43-106頁)は,ネットビジネスを始める際の注意点から,具体的なソフトウエアの導入方法,運用のノウハウうに至るまで,非常に丁寧に解説されており,読者は,この記述に従って,自分自身でもネットビジネスを開始できると思われるほどに充実しています。

私も,この本の記述を参考にして,WordPressを使った「質疑応答のできるWebサイト」を立ち上げることを思い立ち,実際に立ち上げることができましたた。

本書は,ネットビジネスを始める人にとって,必読の書といってよいと思われます。


 

大学の教育目標に欠けていたもの-自立できる学生の養成


これまでの大学教育の目標-企業に依存する人材の育成


私たち大学教員は,これまで,大学教育の目標を大学生の知的能力を向上させるという点においてきました。そして,学生たちが,自ら望む会社,特に有名会社に就職することをもって,大学教育の完結を見たように錯覚してきたように思います。

終身雇用が実現している時代には,そのような錯覚も許されてきたかもしれません。しかし,年功序列に基づく終身雇用が崩れつつある現代においては,有名会社に就職することは,必ずしも生活の安定を意味しません。

た とえ,無事に定年退職をしたとしても,それ以後に続く長い定年後の生活をまっとうするための年金が確実に支払われる保証はありません。つまり,たとえ,望む会社に就職できたとしても,定年までにリストラされる確率は決して低くなく,しかも,定年後の生活保障は必ずしも万全とはいえないのが現状なのです。


これからの大学教育の目標-企業から離れても自立できる人材の養成


そうだとすると,大学教育においても,会社に依存するサラリーマンを育成するのではなく,会社を離れても,一人の力だけでも生きていける能力を育成することを重視する必要があります。

つまり,これからの大学教育は,会社に依存するサラリーマンを育成することを前提にした教育目標を根本から見直し,会社を離れても自立できる人間,さらには,一人で,または,数人で積極的に起業して,社会貢献をする人材を育てることを教育の目標とすべきだと思います。

もちろん,今後も,しばらくの間は,サラリーマンになる学生が多数派となるでしょうが,その場合でも,いざというときには,その人たちが,いつでも自立することができる能力を養うことを大学教育の中心に据えることは,決して,多数派のための教育と矛盾しないと思われます。

企 業のあり方としても,自立能力のあるサラリーマンを多く抱えることは,企業の発展にとって有益であり,自立の能力を有する社員を独立させ,その社員とのネットワークを保持することは,会社のリーダーの養成にとって有益であるばかりでなく,会社の透明性を高めることになり,コンプライアンスの推進の観点か らも有益であると思われます。


これからの大学教育の必須科目


そうなると,大学教育の必須科目には,第1に,学生の一人ひとりが,自らの力でWebサイトを立ち上げて,得意分野でネット取引をできる技能を身につけることができるような,実践的な授業が設定されるべきでしょう。

第2に,個人が生きていくために,これまでは,企業で働くための技術が必要だったのですが,これからは,それにとどまらず,自分の能力を使って「何が売れるのか」,「どのようなサービスで収入を得ることができる」のかを常に考え,どのようにしたら,多くの顧客から支持される能力を育成することが必要となります。したがって,それに対応する必須科目を設置する必要があるでしょう。

大学教育の目標が大きく変化するのですから,教育科目も大きく変化するのは,当然のことだと思います。したがって,私たちの法学部においても,また,広く,法教育の場においても,一人で自立して,健康で文化的な生活を送ることができる能力を育てるためのカリキュラムを用意する必要があると思います。


参考文献


  • クリス・ギレボー,本田直之(訳)『1万円起業 片手間で始めてじゅうぶんな収入を稼ぐ方法』飛鳥新社 (2013/9/11)
  • 中村あきら『東京以外で、1人で年商1億円のネットビジネスをつくる方法』朝日新聞出版 (2014/11/20)
  • 石川栄和=大串肇=星野邦敏『いちばんやさしい WordPress の教本 人気講師が教える本格Webサイトの作り方 』インプレスジャパン (2013/10/25)
  • 鈴木 敏文=勝見 明『働く力を君に』講談社(2016/1/20)

面白い本の紹介(牛島・あの男の正体(2014))


  牛島信『あの男の正体』日経BP(2014/9/24)


2月15日に著者から頂戴した,牛島信『あの男の正体』をやっと読み終えた。さっそく,著者にお礼を兼ねて,感想をメールでお送りした。

これまで,私は,牛島信氏の小説のほとんどすべて読み,「法と経営学」研究科の教材やカリキュラム構成に利用させていただいた。

今回の著書は,登場人物の自立がテーマのひとつとなっており,これまでにも増して参考になった。

今後は,一読者として,牛島氏が,女を主人公として,その自立,後継者の養成,腐敗を防止するためのリーダーの交代等が背景となって展開される物語を執筆してくださることを期待したい。


 

面白い本の紹介(ギレボー・1万円起業(2013))


クリス・ギレボー,本田直之(訳)『1万円起業-片手間で始めてじゅうぶんな収入を稼ぐ方法』飛鳥新社 (2013/9/11)


原題は,”The $100 Start up”(100ドル起業)です。若者だけでなく,定年退職を控えた人々にとっても,起業の敷居を低くしてくれる本です。

著者によると,本書のタイトルの「1万円起業」とは,「貯金はいらない。会社を辞めなくても始められる。主婦にも向いている。今以上の収入と思い通りの暮らしが実現できる方法」だとのことです。

確かに,これまでなら,1万円(100ドル)で起業するなどということは不可能でした。しかし,インターネットの普及によって,企業環境は,以下の理由によって,1万円の資金があれば,一人でも商売が成り立つほどに,劇的に変化していると思われます。

  • 第1に,従来は,店舗を構えるため等の初期投資が必要でしたが,現在では,パソコンとインターネットでサイトを開設する金額があれば,ネットショップを構えることが可能です。
  • 第2に,従来は,顧客を誘引するための広告費が必要でしたが,インターネット空間では,広告費用が不要となるばかりでなく,むしろ,人気のあるサイトを運営すると,広告料収入を得ることができるという点で,初期投資がほとんど不要となっています。
  • 第3に,人件費ですが,従来は,コンピュータができることに限界があるため,人手によって店舗を運営する必要がした。しかし,現代において は,人工知能(AI)の発展に見られるように,店舗運営における経理,顧客管理等の複雑な処理をコンピュータが自動的に行うことができるようになっており,年商が 億単位の店舗運営を一人で切り盛りしている例も少なくありません(中村あきら『東京以外で,1人で年商1億円のネットビジネスをつくる方法』朝日新聞出版(2014)が参考になります)。

しかも,コンピュータは,自動運転が可能なので,起業の準備であ れば,会社勤めをしながらでも可能です。したがって,会社で実社会での経験を積んでから,ネット事業に転進することも可能です。そして,ネット事業が軌道に乗れば,在宅勤務も可能であり,世界中を移動しながら事業を継続することもできます。つ まり,自分の思うとおりの時間と場所で自分の好きな事業を行うことができるのです。

それだけではありません。勤めている会社の上司や同僚や部下に,理不尽な扱いをされたり,会社の経営方針が自分の生き方に反する方向に進み始め,自分の力ではどうすることもできないと思ったりしたときに,迷わず,辞表を出して,自立できるようになるとしたら,とても素敵なことだと思います。

しかも,そのような事態が生じることは,会社にとってもよいことです。なぜなら,潜在的に自立する能力を持つ人が会社の構成員の過半数を超えるようになれば,会社が経営方針を誤れば,みんな辞めてしまうということになるため,会社の不正や腐敗が激減することが期待できるからです。