アウトラインプロセッサの利用の薦め


アウトラインプロセッサの効用


文書を作成する際に,皆さんはどのようなエディタをお使いでしょうか。私は,以前に,Macを使っていた頃は,ACTAというアウトラインプロセッサ(アイディアプロセッサともいう)で文章を書いていました。ここでは,Windowsでも利用することができる優れたアウトラインプロセッサであるOliveneEditorを紹介したいと思います。

アウトラインプロセッサとは何か

アウトラインプロセッサ(outline processor or outliner)というのは,文書のアウトライン構造(全体の構造)を定めてから,細部を編集していくために用いられる文書作成ソフトウェアのことです。パソコンで文章を構造化して書くのであれば,このエディタで書くことをお勧めします。

たとえば,以下のように,文章を,第1章,第1節,第2節,第2章,第4節,第5節,結論という構成をしたとしましょう。

第1章 問題提起

第1節 従来の考え方とその問題点

第2節 問題解決のための仮説の提示

第2章 具体的な問題についての解決方法

第4節 仮説による解法と検証

第5節 従来の考え方との差

結論 困難な問題の解決

このような構造化された文章を書く場合に,通常のエディタとか,ワープロを使って書く場合には,初めから順番に書くのが普通でしょう。もしも,途中から書くとなると,それまでのページをスクロールして該当箇所にたどり着かなければならず,しかも,さまざまな箇所を行ったり来たりしている間に,全体の構成がわかりにくくなってしまうことがあります。

この点,アウトラインプロセッサを使って文章を書くと,構造のレベルが,たとえ,編,章,節,款…というように,構造の深さのレベルを深めていくことができますし,不要な章や節を折りたたんで見えなくすることによって,書いている箇所に神経を集中させることができます。

アウトラインプロセッサは,現在書いている以外の部分を一時的に「隠す機能」を有しているため,第1章と第2章を折りたたんで見えなくして,結論に飛んで,そこから書き始めたり,そこで思いついたアイデアをいきなり第2章第4節に飛んで,その部分を書いたりということが,スムーズにできます。

しかも,構造自体が一かたまりとなっているため,たとえば,第2章第4節を,第1章の第3節へと,ごっそりと移転したいという場合にも,それまで書いた第2章4節の文章が,どれほど大量になっていたとしても,クリックして一まとめにして,第1章の最後の箇所に,一瞬で移転することができます。

従来のアウトラインプロセッサの問題点

アウトラインプロセッサは,もともとは,文章を構造化しながら作成するための道具でしたから,出力については,たいした機能をもたず,アウトラインプロセッサで作成した文章は,ワープロを使って印刷すればよいと考えられてきました。

しかし,構造化した文章を出力する際には,たとえ,ワープロを利用するにしても,体裁を整えるなどの面倒な作業はしなくてすむような機能を有していることが必要でしょう。

私が,以前使っていたアウトラインプロセッサは,残念ながらそのような機能を有していなかったために,私は,その後,アウトラインの機能と美しい出力機能を合わせて持つWordのアウトライン機能を使って,文章を作成してきました。

ワープロの付属機能としてのアウトラインプロセッサの問題点

確かに,Wordなどのワープロに付属しているアウトライン機能を使うと,出力との連携が保証されます。しかし,Wordにおいては,アウトラインは,あくまで,付属機能に過ぎないため,レベルが9までに制限されています。したがって,それ以上に深いレベルを必要とする文章には対応できません。

もちろん,通常の論文であれば,構造のレベルが9を超えるようなことは生じないでしょうし,レベルが9を超えるような論文は,複雑すぎて,読み手にとって迷惑となるおそれがあります。

しかし,私は,民法をアウトラインプロセッサを使って体系化し,しかも,わかりやすく記述するという試みを行っています。民法を体系化しようとすると,構造のレベルは,軽く9を超えてしまいます。たとえば,瑕疵担保責任(民法第570条)にいたるまでの経路を辿ってみましょう。

そのレベルは,1. 民法,2. 財産法,3. 債権,4. 債権各論,5. 契約,6. 契約各論,7. 財産権を移転する契約,8. 売買,9. 売買の効力,10. 担保責任というように,レベルが10まで必要なことがわかります。

1 民法

2 財産法⇔家族法

3 債権⇔総則,物権

4 債権各論⇔債権総論

5 契約⇔事務管理,不当利得,不法行為

6 契約各論⇔契約総論

7 財産権移転契約⇔物の利用契約,…

8 売買⇔贈与,…

9 売買の効力⇔買戻し,…

10 瑕疵担保責任⇔追奪担保責任

したがって,私は,レベルを9までしか深めることができないWordを使って,民法を記述することをあきらめました。

OlivineEditor による問題の解決

Wordを使って民法の体系化を実現する試みを断念した私は,Windowsで使えて,構造化のレベルが無限であり,しかも,完成された文章が,面倒な整形を施すことなく,ワープロ等で印刷可能となるアウトラインを探してみました。

すると,OlivineEditorというアウトラインプロセッサが見つかりました。OlivineEditorを試しに使ってみると,アウトライン機能はもちろんのこと,表示機能も優れており,テキストとHTMLとがワン・クリックで入れ替わるだけでなく,HTMLのタグ付のファイルも表示することができるため,出来上がった作品をそのままWebサイトに掲示することができることがわかりました。

印刷されたのと同様の画面にワンタッチで切り替えることができるということは,文章の誤りを見つける上でも非常に有用です。私は,構造化テキストを作成する途中で,常に,ワンタッチでHTMLでの表示画面をみて,見栄えを確認しています。出力画面で自分の書いた文章を読んでみると,テキストで作成していたときには見過ごしていた誤りを発見すことができるからです。

民法全体をアウトラインプロセッサで記述する試み

現在,私は,上記のOlivineEditorというアウトラインプロセッサを使って,民法の体系化と,それぞれの項目の解説文を作成中です。

構造化が無限にできること,作成した構造がWindowsのプロンプトを使って美しいツリー構造に表現できること,解説文を作成する段階で最終的な出力画面を見ながら誤りの訂正に気づくことができることなど,OliveneEditorの機能がとても気に入っています。

そして,このアウトラインプロセッサを使ってみると,自分の知識を構造の中のどの部分に蓄積すると知識が効率的に伝達できるかが発見できることに気づきました。全体の知識の中で,部分的な知識がどのように位置づけられているかについて,ツリー構造で一覧できるOliverEditorは,Windowsのシステムの下で体系的な文章を作成するのに最も適したアウトラインプロセッサではないかと,私は考えています。

全体的理解と部分的理解とをどのように調和させるか

 


部分的理解と全体的理解との関係

日本全図,分県地図から住宅地図へ,同様に,民法の目次,条文から判例へ


民法の全体的な理解がないと民事の事例問題は解決できません。しかし,学習する立場からすれば,一挙に全体的な理解に到達することができるわけではなく,部分的な理解から徐々に始めるしかありません。全体的な理解ができていないうちから,事例問題を解かなければならなくなったとすれば,どうすればよいのでしょうか。今回は,この問題を検討してみようと思います。

全体的理解と部分的理解との関係を検討するに際しては,日本全図と分県地図で目的地を探す場合を例にとるのがわかりやすいように思われます。

たとえば,あなたが,日本民法典研究支援センターの会員となり,そこを訪ねることになったとしましょう。目的地の住所を見ると,大分県速見郡日出町となっています。あなたが東京いにいるとして,日本地図を見て,どのような交通機関を使うかを調べてみましょう。大分県が,九州にあり,東京からは,かなり遠いところにあることがわかれば,列車を使うか,飛行機を使うかの選択をしなければなりません。次に,住所が列車の駅から近いか,飛行場から近いかを知らなければなりません。つまり,最寄り駅がどこか,最寄の空港がどこにあるのか,出発点から,到達点までにかかる費用,時間,利便性を考慮して,どのような方法をとるかを決定しなければなりません。

 Map01s  CivilLawMap1s
 日本全図で概要を知る 民法の体系目次で,あたりをつける

大分県は,東京からかなり離れているので,列車で行くか,飛行機でいくかの選択に際しては,日本全図が便利です。しかし,最寄り駅,または,空港に到着してからは,縮尺の大きな分県地図が便利ですし,最後の目的地にたどり着くには,市町村単位の住宅地図の力を借りなければならないでしょう。

民法の学習もこれに似ています。問題解決をするには,問題に適用されるべき民法の条文がどこにあるのかを探さなければならないのですが,いきなり,適用されるべき条文を探すのではなく,その問題が,相続争いの問題なのか,交通事故の問題なのか,契約不履行の問題なのか,大枠で検討をつけるには,民法の目次から探すのが便利です。地図でいえば,日本全図です。

大枠が交通事故などの複数当事者がからむ不法行為事件であるとすると,特別法である自賠法3条のほかに,民法709条から724条までの条文が適用されることがわかります。そのことがわかれば,次に,それらの法律の条文を読んでいくことになる。地図のたとえでいえば,日本全図から的を絞って,分県地図を見ることになります。

 Map03s  CivilLawMap2s
詳細地図で方針を練る 体系目次から条文へとつなげる

適用すべき条文がわかれば,その条文の意味をコンメンタールで調べ,さらに,似たような事件がどのように解決されたかを知るために,その条文についてどのような判例があるのかを調べることが必要です。地図のたとえでいえば,最寄り駅から目的地までの住宅地図を見ながら目的地にたどり着かなければならりません。

法律問題を解くためには,このように,問題解決をするためには,いくつも法律文献を紐解きながら,的を絞っていく必要があります。

最新の地図であるGoogleマップならば,東京から目的地までを一望しておき,交通機関が決まったら,目的の駅なり空港に的を絞り,そこから目的地までの詳細な経路をたどるということになります。

法律の学習も同じことです。第1に,全体像を知るためには,六法の目次を活用して,全体像を把握します。第2に,問題が絞れたら,関連する条文をよく読み,その意味を辞書やコンメンタールで理解します。そして,最後に,その条文に関連する判例のうち,問題となる事件に似たような判例を探し出して,その事件が裁判所で争われたらどのような結果が生じるかを検討します。

このような地道な学習を積み重ねることによって,いきなり,困難な問題に直面した場合にも,その問題を解決すべき条文を探し出し,問題の事例に似た判例を見つけ出して,問題解決の指針とすることができるようになるのです。


 

Kindleの読み方-Amazon Kindleを使って重要部分の引用を可能にする


本好きの悩みを解決してくれるKindleの利点


本を読む楽しみは,同時に,読んだ本の収納場所に難儀するという苦しみを伴います。職業的に本を読むことを強いられる学生,執筆家,研究者たちにとって,本の整理と収納を効率的にすることは,読書と執筆に劣らず重要な課題となります。

その点をほぼ解決してくれるのが,Kindleでしょう。収納スペースを一切とらない上に,携帯用のパソコンとかスマートフォンなどがあれば,どこにでも持ち歩くことができます。したがって,通勤中でも,立ったままでも,読書をすることができます。たとえ,読書の途中で,Kindleを閉じることがあっても,もう一度読むときは,その読みかけた箇所に戻ってくれます。

Kindleの利点は,それにとどまりません。その本に出てくるすべての用語を検索することができますし,日本語,外国語の単語も,カーソルを当てるとか,右クリックするだけで,自動的に辞書を引いて,その意味を教えてくれます。特に,外国語の本を読むときは,非常に便利です。また,普通の本の場合だと,注を読むのは面倒ですし,注を読んでいると,もとの本文に戻れなくなるおそれがあります。しかしKindleの場合には,注を読むのも,カーソルを当てるなり,右クリックするだけでよく,すぐに注の箇所に飛んでいくし,注を読み終われば,すぐにもとの本文に帰ってくれます。

さらに,Kindleの場合には,4色のマーカーや,付箋を用意する必要がありません。本を読んでいて,チェックすべき箇所があれば,ドラッグするだけで,4色のマークをつけることができますし,気づいたことをその箇所にノートとして書き込むこともできできるからです。


Kindleのデメリットと思われてきた問題点とその解決策


良いこと尽くめのKindleですが,私は,最近まで,本文を引用するに際しては,Kindleにも,大きな欠点があると考えていました。

もちろん,自分で書いたノート部分は,テキスト文なので,自分で引用できるのですが,Kindleの本文や,マーカーを引いた重要箇所については,自分が書いている文章や論文に,簡単にコピーして引用することができないと思っていたからです。

しかし,何事にも解決策はあるというのが正解のようです。うまい解決法はないものかと,Googleで検索してみると,「Kindle本のハイライト箇所一覧をEvernoteに読書メモとして保存する方法」という記事のほか,たくさんの有用な記事が見つかりました。

この記事にしたがって, Amazon Kindle にアクセスし,自分のAmazonのIDとパスワードでログインすると,ヘッダーに,Your Booksという項目が現れます。そこで,その部分をクリックすると,自分が購入した本の一覧が示されます。その中から,自分が引用したい本をクリックして,ヘッダーのYour Highlightsをクリックすると,自分のマークした部分,および,自分のノートがテキスト文で表示されます。

この機能を使うと,読んだ本の重要部分がテキスト文となって表示されるので,自分の書いている文章や論文に簡単に引用することができます。これで,これまでKindleの数少ない欠点と思われてきた問題が解消することになりました。


Amazon Kindle を使った本の読み方,引用の仕方


Kindleで読んだ本の重要部分(マーカーをつけた部分)を自分の書いている文章に簡単に引用する手順をまとめて示すことにしましょう。

第1に,Kindleで本を読み,重要だと思う箇所にマークをつけ,気づいた点をノートに書き込んでおきましょう。

第2に,Amazon Kindle にアクセスし,アマゾンのIDとパスワードでログインします。ヘッダーのYour Books をクリックして,読んだ本を選択し,ヘッダーのYour Highlightsをクリックすると,自分のマーカーとノートが一覧で示されます。

第3に,マーカー部分,または,ノート部分をコピーし,自分の書いている文章にペーストします。これで,Kindleで読んだ本の重要部分の引用が完了します。

このようにして,好きな本や必要な本をKindleで読む際に,重要な箇所にマーカーをすると同時に,自分が書く文章や論文に,「どのような観点から引用するのか」をノートに記録しながらマーカーを使って本を読むと,読み終わった後に,その本の書評や,引用作業が非常に楽にできるようになります。

そんなわけで,Kindleで本を読むときは, Amazon Kindle を併用されることをお勧めします。本の読み方が,自然と深くなり,後々の仕事を効率的に進めることができるようになると思うからです。


 

 

大学の教育目標に欠けていたもの-自立できる学生の養成


これまでの大学教育の目標-企業に依存する人材の育成


私たち大学教員は,これまで,大学教育の目標を大学生の知的能力を向上させるという点においてきました。そして,学生たちが,自ら望む会社,特に有名会社に就職することをもって,大学教育の完結を見たように錯覚してきたように思います。

終身雇用が実現している時代には,そのような錯覚も許されてきたかもしれません。しかし,年功序列に基づく終身雇用が崩れつつある現代においては,有名会社に就職することは,必ずしも生活の安定を意味しません。

た とえ,無事に定年退職をしたとしても,それ以後に続く長い定年後の生活をまっとうするための年金が確実に支払われる保証はありません。つまり,たとえ,望む会社に就職できたとしても,定年までにリストラされる確率は決して低くなく,しかも,定年後の生活保障は必ずしも万全とはいえないのが現状なのです。


これからの大学教育の目標-企業から離れても自立できる人材の養成


そうだとすると,大学教育においても,会社に依存するサラリーマンを育成するのではなく,会社を離れても,一人の力だけでも生きていける能力を育成することを重視する必要があります。

つまり,これからの大学教育は,会社に依存するサラリーマンを育成することを前提にした教育目標を根本から見直し,会社を離れても自立できる人間,さらには,一人で,または,数人で積極的に起業して,社会貢献をする人材を育てることを教育の目標とすべきだと思います。

もちろん,今後も,しばらくの間は,サラリーマンになる学生が多数派となるでしょうが,その場合でも,いざというときには,その人たちが,いつでも自立することができる能力を養うことを大学教育の中心に据えることは,決して,多数派のための教育と矛盾しないと思われます。

企 業のあり方としても,自立能力のあるサラリーマンを多く抱えることは,企業の発展にとって有益であり,自立の能力を有する社員を独立させ,その社員とのネットワークを保持することは,会社のリーダーの養成にとって有益であるばかりでなく,会社の透明性を高めることになり,コンプライアンスの推進の観点か らも有益であると思われます。


これからの大学教育の必須科目


そうなると,大学教育の必須科目には,第1に,学生の一人ひとりが,自らの力でWebサイトを立ち上げて,得意分野でネット取引をできる技能を身につけることができるような,実践的な授業が設定されるべきでしょう。

第2に,個人が生きていくために,これまでは,企業で働くための技術が必要だったのですが,これからは,それにとどまらず,自分の能力を使って「何が売れるのか」,「どのようなサービスで収入を得ることができる」のかを常に考え,どのようにしたら,多くの顧客から支持される能力を育成することが必要となります。したがって,それに対応する必須科目を設置する必要があるでしょう。

大学教育の目標が大きく変化するのですから,教育科目も大きく変化するのは,当然のことだと思います。したがって,私たちの法学部においても,また,広く,法教育の場においても,一人で自立して,健康で文化的な生活を送ることができる能力を育てるためのカリキュラムを用意する必要があると思います。


参考文献


  • クリス・ギレボー,本田直之(訳)『1万円起業 片手間で始めてじゅうぶんな収入を稼ぐ方法』飛鳥新社 (2013/9/11)
  • 中村あきら『東京以外で、1人で年商1億円のネットビジネスをつくる方法』朝日新聞出版 (2014/11/20)
  • 石川栄和=大串肇=星野邦敏『いちばんやさしい WordPress の教本 人気講師が教える本格Webサイトの作り方 』インプレスジャパン (2013/10/25)
  • 鈴木 敏文=勝見 明『働く力を君に』講談社(2016/1/20)