書評:瀬木 比呂志『ニッポンの裁判』講談社現代新書 (2015/1/16)


瀬木 比呂志『ニッポンの裁判』講談社現代新書 (2015/1/16)


本書の概要

本書は,瀬木 比呂志『絶望の裁判所』講談社現代新書(2014)の姉妹書です。『絶望の裁判所』が制度批判の書物であったのに対し,本書『ニッポンの裁判』は,裁判批判を内容とするものです。

本書は,99.9%という異常な有罪率を誇る刑事裁判において生み出されている数多くの冤罪と恣意的な国策捜査,民事の名誉毀損損賠賠償訴訟・原発訴訟における最高裁事務総局による下級審の裁判内容のコントロール,原告勝訴率わずかに8.4%の行政訴訟,調査官のいいなりと揶揄される憲法裁判,刑事系裁判官による裁判員制度の悪用,裁判員制度のイベント企画にまつわる不正経理の実態など,具体的な事例を紹介しつつ,裁判所と裁判官は自浄作用が期待できないほどに腐敗していることを明らかにしています。

本書の特色

本書によって,裁判所は,前近代的な服務規律が改めら得れることもなく,ハラスメント防止のためのガイドラインも,相談窓口や審査機関もなく,セクシュアル,パワー,モラル等の各種のハラスメントが横行するというように,究極の腐敗状態に陥っていることが明らかにされています。

しかし,筆者によれば,裁判所は,清く正しくあってこそ,正当性を有しているのであって,人々がそう思っているから,人々を従わせることができるに過ぎません。したがって,もしも,国民が,裁判所が究極的に腐敗していることを知るようになれば,裁判所の権威など誰も認めなくなり,提訴率は激減し,裁判所の判断には誰も従わなくなるに違いありません。

そこで,筆者は,腐敗をとめられずに暴走しつつあるわが国の裁判所・裁判官制度を根本的に改革するには,事務総局人事局の解体とそれ以外のセクションの大学事務局的な部門への改革,キャリアシステムの法曹一元制度への移行以外にないと断言しています。

本書の課題

本書の筆者は,第7章(株式会社ジャスティスの悲惨な現状)において,以下のように豪語しています。

裁判所・裁判官制度の根本的な改革は,事務総局人事局の解体とそれ以外のセクションの大学事務局的な部門への改革(権力的な要素をなくして事務方に徹するようにするという趣旨),そして,キャリアシステムの法曹一元制度への移行以外によってはなしえないのではないかと考える(『絶望』第6章)。それ以外の有効な方法があると考える人がいるなら,きちんと実名を示してそれを提案していただきたいと思う。

『絶望』に対する専門家の意見はかなりの数あった(もっとも多くは匿名)が,私の知る限り,現在の裁判所・裁判官制度の改善に関する有効な対案は,示されたことがないのではないかと考える。

以下の記述は,本書の筆者に対するささやかな反論と実名を示した提案です。

本書で提言されている裁判所改革は,自浄作用が期待できないはずの裁判所(絶望の裁判所)による改革です。これでは,効果は期待できないのではないでしょうか。

裁判所の腐敗を止めるには,以下のように,国会,および,国民という,外部からの裁判所に対する監視・弾劾機能を強化することが必要です。

第1に,三権のうちで国民に近い存在であり,裁判官を罷免する実績を有する国会による弾劾裁判(裁判官弾劾法第2条以下)のいっそうの強化によって,下級審の裁判官の基本的人権を侵害している最高裁の事務総局のトップ,裁判官の独立を侵害している下級裁判所のトップ等を罷免できるようにすることが不可欠でしょう。

第2に,国民自身による国民審査の改革を進めて,国民に奉仕するのではなく,最高裁の事務総局に奉仕したり,天下り先の大手の弁護士事務所や銀行の利益に奉仕している腐敗した最高裁の裁判官を国民審査(憲法第79条第2項~第4項)を通じて罷免したり,事後収賄罪(刑法第197条の3第3項)で告発したりするほかないと思われます。

そうではなく,裁判所による改革に頼っていたのでは,法の解釈に関して,最終的な決定権を有するため,実質的に,国権の最高機関となっている最高裁の改革は,いつまでたっても実現できないでしょう。

書評:瀬木比呂志『絶望の裁判所』講談社現代新書 (2014/2/21)


瀬木比呂志『絶望の裁判所』講談社現代新書 (2014/2/21)


本書の概要

わが国の裁判官は,一般には,優秀で,公正,中立,廉直という印象をもたれています。しかし,その印象は誤りであり,実際の裁判官は,さほど優秀でもなく,公正でも,中立でも,廉直でもなく,むしろ,腐敗しており,しかも,裁判所自身の努力によってそれを改善することは絶望的であるというのが,33年間裁判官を務めた筆者の見解です。

本書の特色

筆者は,現在,裁判官を辞任し,学者に転進しています。筆者によれば,現在の裁判所は,情実人事,裁判官の不祥事等が横行しており,裁判官の個人の尊厳も,表現の自由も奪われており,サービス業で最も重要な「顧客志向」の精神が完全に欠落しているといいます。そして,裁判所がそのような危機的な状態に陥っているのは,最高裁による巧妙な裁判官支配によって,現在の裁判官の視線は,国民に向けられているのではなく,判決が評価され,昇進に響く,上級審や最高裁(事務総局)に向けられているからであるというのが筆者の分析です。

その結果,裁判を利用した人々の満足度は,2割を切っているのですが,それを改善しようとする裁判所の動きは皆無であり,裁判所は,その自浄作用も期待できない危機的な状態にあるということを筆者が実際に経験した具体的な事例を踏まえて明らかにしている点に本書の特色があります。

本書の課題

司法官僚の支配によって絶望的な腐敗状況にある裁判所を国民のための裁判所にするためには,裁判官の任官制度を改革して,弁護士を経験し,人生の機微を理解すようになった上で,裁判官になるという法曹一元の制度を構築することが必要であるというのが筆者の改革提言です。

しかし,司法を改革するのに,司法の内部で改革しようとしても,おそらく問題は解決できないと思います。人間ばかりでなく,法律が無効であるかどうかを裁くという,物事の最終的な決定権を最高裁が握っている以上,司法によって司法の腐敗を止めることはできないでしょう。

三権のバランスを回復し,これまでにも,裁判官を罷免する実績を有する,国会の内部に開設される弾劾裁判所のシステムを強化・整備し,憲法に反する支配体制を進めている最高裁判所のトップを弾劾できるようにしなければ,裁判所の腐敗を止めることはできないでしょう。

なぜなら,アクトン卿の格言にあるように,「権力は腐敗に向かう,絶対的権力は絶対的に腐敗する(Power tends to corrupt, and absolute power corrupts absolutely.)」からです。

 

明治学院大学法学部フレッシャーズ研修での講評


明治学院大学法学部入学者のための研修会での事例研究の後の講評


明治学院大学法学部に入学した学生たちのために,新高輪プリンスホテルの飛天の間でフレッシャーズ研修が開催されました。

プリンスホテル新高輪

 

そこでは,「サッカーボール回避高齢者転倒死亡事件」(最高裁第一小法廷平成27年4月9日判決民集69巻3号455頁)をモデルにして,法学部の上級生であるSC(Student Counselor)たちが作成した事例(9歳の児童が公園でフットサルをしていて,その子の蹴ったボールが公園の外に飛び出し,自転車で通行していた人が,そのボールをよけようとして転倒して骨折した事件)について,SCの司会・進行の下に,法学部の新入生たちが,20名程度のグループに分かれて,詳しく検討しました。

以下の文章は,新入生の検討の後に,私(加賀山)が講評をした内容に,多少の追加をしたものです。


民法をマスターする近道は,民法のGoogle mapを作ること


民法は,条文数が1,044カ条というように,法律の中でも,条文数が最も多い法律の一つです。したがって,民法をマスターしようと思えば,常に,民法の個々の条文と民法全体の体系とを結びつけて学習するようにしないと,迷子になってしまいます。

迷子にならないようにするために必要なのが,地図ですが,最近の地図,たとえば,上の図で示したように,Google map を利用すると,住所を入力するだけで,住宅地図,分県地図,日本地図,世界地図へと,逆に,世界地図,日本地図,分県地図,住宅地図へとシームレスに移行することができます。したがって,自分が行こうとする場所へのアクセスが最短距離,最低料金等,目的に応じて選択できるようになりますし,常に,自分がどこにいるのかを確かめることができます。

法律,特に,条文数の多い民法を学ぶときも,同じことがいえます。自分が学習しようとする問題について,民法のどの条文が適用されるのか,その条文は,民法の全体の体系の中で,どのように位置づけられているかを知ることが,迷子にならないために必要です。

WagatsumeGuidanceOfCivilLawところが,現在のところ,民法の世界では,Google map に相当する民法の案内図がいまだに存在しません。民法の代表的な入門書である我妻栄『民法案内』第1巻『私法の道しるべ』にも,地図的な思考方法の重要さが述べられていますが,偉大な我妻先生でも,民法の完全な地図を作ることはできませんでした。

しかし,あきらめてはいけません。「民法のGoogle map」を作成するという目標と粘り強い努力を続けるならば,数年後には,「民法のGoogle map」(日本民法典)を完成させることができると,私は考えています。


法学部生の強みは何か(事案から条文への逆向き推論の能力)


今回,新入生の皆さんが検討した事例は,サッカーボール事件であり,この問題を解決するには,民法714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)の解釈が重要になりますが,そのほかに,民法712条(責任能力),709条(不法行為による損害賠償),719条(共同不法行為)を理解することが必要です。

ところで,このような個別の条文(民法709条,712条,714条,719条)にたどり着くために,皆さんは,どのような勉強をしなければならないのでしょうか。

民法を学習する目的は,市民生活の中で生じた紛争を平和的に解決することができる解決案を提示できる能力を養うことです。つまり,具体的に生じた事案に対して,最も適切な条文を探索する能力が必要です。

rule_based_j1しかし,この能力を養成することが,実は,非常に難しいのです。見つかった条文を前提にして,その条文がどのような意味を持ち,どのような先例があるのかを知ることであれば,法学部の学生でなくても,法律辞書と六法と判例データベースがあれば,誰でもできます(トップ・ダウン式の思考方法)。

しかし,逆向きの推論,すなわち,具体的な事例に対して,2,000近くもある法律の中から,適切な法律を選び,しかも,民法の場合であれば,1,044カ条もある条文の中から,その事件に適用されるべき条文を選択することは,至難の業です(ボトム・アップ式の思考方法)。法学部で,厳しい訓練を受けた学生以外の学生には,とうていなしうる業ではありません。

法学部以外の経済学部や社会学の学生たちは,社会に出たとき,確かに統計資料等の資料を用いて,問題の定量的な分析はできるかもしれません。しかし,解決が困難な問題が生じた際に,六法をめくりながら,「この問題には,この条文が適用される可能性が高く,出るところに出れば,こちらにとって,不利な判決が出る可能性があります。ですから,早急に,対応をとることが必要です。」と言えるようになるのは,法学部の卒業生だけでしょう。

せっかく,法学部に入学したのですから,皆さんは,そのような能力,すなわち,「困難な問題について,適切な条文を根拠にして,当事者も,専門家も,社会も,すなわち,誰もが納得できる解決案を提示できる能力」を養うための方法を知らなければ,もったいないと思います。

そこで,今回のサッカー(フットサル)ボール事件を例に取りながら,民法の正しい学習法について概観してみることにしましょう。


民法の学習の道しるべ


スライド3民法は,5編からなりなっています。第1編総則,第2編物権,第3編債権,第4編親族,第5編相続です。第1編の総則の第1章は,通則とされており,第1条と第2条が,民法全体に通用する原則を定めています。

民法第1編,第1章の通則(民法第1条,第2条)に規定されている民法の大原則は,憲法の基本的人権の規定に裏打ちされた規定であり,たとえ,憲法が改正されたとしても,その精神が変わることがないとされており,数百年単位で安定した部分であって,しっかりと理解する必要があります。

スライド4しかも,たとえば,民法第1条は,民法の大原則として重要な位置を占めるばかりでなく,後に述べる民法適用条文ベスト10に入っており,民法709条を中心に下不法行為方,民法415条の契約(債務)不履行責任に次いで,最もよく使われる条文の一つとなっています。

民法通則のうち,民法1条(基本原則,私の解釈によれば,私権の制限)は,上の図のように,憲法第29条【財産権】を受けて作成された条文であり,また,民法2条(解釈の基準,私の解釈によれば,私権の目的)は,憲法第24条【家族生活における個人の尊厳と両性の平等】を受けて作成された条文ですが,いずれも,憲法第13条【個人の尊重・幸福追求権・公共の福祉】の規定を押さえて作成されており,民法全体を見渡す上で,非常に重要な役割を果たしています。

スライド6今回の事例(サッカー(フットサル)ボール事件)は,不法行為の事件ですので,民法第3編債権の第5章不法行為の箇所の条文を見る必要があります。

不法行為法は,「一般」不法行為としての民法709条,712条,713条,720条,724条,および,「特別」不法行為としての民法714条~民法719条,723条とで成り立っています。

スライド7不法行為法は,民法適用ベスト10に多くの条文が入っており,最もよく使われている条文です。特に民法709条は,民法が適用される全事件の約3割が民法709条に基づいて解決されており,民事の事件について,どの条文が適用されるだろうかと言われたら,「民法709条」ですと言えば,3割は当たるというほどに重要な条文です。

今回の事例では,それが,民法709条に書かれている要件を満たしたといえいるかどうかが基本的に重要となりますが,未成年者であって,事理弁識能力を欠く場合には,民法712条によると,その人の責任を追及することができませんので,民法714条に従ってその監督義務者である親権者に対して責任を追及することになります。

第709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

第712条(責任能力1)
未成年者は,他人に損害を加えた場合において,自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは,その行為について賠償の責任を負わない。

第714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
①前2条〔責任能力〕の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合におい て,その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は,その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし,監督義務者がその義務を怠ら なかったとき,又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは,この限りでない。
②監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も,前項の責任を負う。


不法行為法の全体像の理解(電気回路図による比ゆ的な表現)


CivSysPart3Chap5Circuit01不法行為法は,先に述べましたように,民法の中で最も適用頻度の高い分野であり,しかも,一つのシステムを構成していますので,これを電気回路図で比ゆ的に表現することができます。

しかも,この電気回路図によると,スイッチを入れるのが誰なのか,すなわち,不法行為法の要件を証明するのが原告の方なのか被告なのかを明確に表現することができます。右上の図では,上の列にあるのが,原告が証明するスイッチ,右の列にあるスイッチが被告が証明すべきスイッチです。そして,下の列にあるのが,いったんついた電灯(損害賠償請求権)を消滅させるスイッチを示しています。以上が,一般不法行為法の全体像です。

CivSysPart3Chap5Circuit03次に,特別不法行為の場合には,被害者をよりよく救済するために,特に,被害者による証明が困難な「故意又は過失」の証明を軽減すために,バイパスが用意されていると考えることができます。

原告が,ある事件が一般不法行為ばかりでなく,バイパスに該当することが証明されると,立証責任が転換されて,加害者の方で,過失がなかったこと,すなわち,十分な注意を尽くしたことを証明しない限り,損害賠償責任が認められます。

CivSysPart3Chap5Circuit04いったん損害賠償責任が認められると,その責任が消滅するには,時間の経過が必要です。加害者を知ってから3年,加害者がわからない場合でも,事故から20年が経過すると損害賠償責任が消滅します。

このように,不法行為の全体像を図示して頭に入れておくと,どのような事件が生じた場合にでも,どのような条文が適用され,原告と被告とは,何を証明しなければならないかがよくわかるようになると思います。


200年以上にわたって,変わることがなかった法原理としての民法709条の学習の重要性


民法709条の背景に控えている法原理,すなわち,「有用と思うことは自由にしてよい。しかし,他人に損害を与えないように注意し,社会的費用を最小にするように行動せよ。もしも,故意または過失によって他人に損害を与えた場合には,その損害を賠償せよ」という不法行為法の大原則について,述べておきます。

このような一般不法行為の法原理は,「一般」不法行為法を発明したフランスの学説が,1804年に成立したフランス民法典(Code civil)の第1382条によって,初めて世界に発信されました。わが国の民法709条は,この伝統を引き継いで起草された条文です。

CodeCivil2016ssフランス民法典 第1382条
フォート(故意又は過失)によって,他人に損害を生じさせた者は,それによって生じた損害を賠償をする責任を負う。
Art. 1382
Tout fait quelconque de l’homme, qui cause à autrui un dommage, oblige celui par la faute duquel il est arrivé à le réparer.

日本民法 第709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

これらの条文は,フランスにおいても,また,わが国においても,すでに,200年間にわたって,変わることなく適用され続けており,今後も数百年にわたって変化することはない,大原則だと思います。

しかも,民法709条は,わが国において,もっとも頻繁に適用されている条文です。民法が制定されて以来,裁判所で適用された民法の条文の中で,約3割という,突出した適用頻度を保ち続けているのは,民法709条だけです。したがって,皆さんは,民法を勉強するに際しては,この条文から学習を始めるのがよいでしょう。

さらに,世の中に生じる不条理な事件は,単独で行われるよりも,複数の人とか,複数の原因が絡んで生じることが多いことに気づくならば,共同不法行為(民法719条)の考え方について学習を深めましょう。

第719条(共同不法行為者の責任)
①数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは,各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも,同様とする。
②行為者を教唆した者及び幇(ほう)助した者は,共同行為者とみなして,前項の規定を適用する。

そうすると,今回の事件も,実は,サッカーボールを蹴った子供だけが事故の原因を作り出したのではなく,子供に付き添わなかった親,事件が起こった公園の管理者,事故を起こした被害者の行動など,複数の原因が絡み合って生じており,その場合の責任の分配がどのようになされるべきであるのかを知ることができるようになります。


結論(法学部で学ぶ者の責務)


刻々と変化する社会の複雑な現象に対して,私たち法学部で学ぶ者は,以下のような二つの道具を使いこなして,誰もが(当事者も,専門家も,社会もが)納得できるような紛争解決案を提示する能力を養わなければなりません。

第1は,人類が獲得してきた永遠の法原理(「有用と思うことは自由にやってよい。しかし,他人に損害を生じさせないように注意し,社会的費用を最小にするように行動せよ。もしも,故意又は過失によって他人に損害を生じさせた場合には,その損害を賠償せよ」という法原理)を常にバックボーンとして持ち,ぶれることのない判断を行うことです。

第2は,法原理から抽出されるものではあるものの,時代に合わせて緩やかに変更される個々の条文(民法だけでなく,特別法の条文)を使いこなして,専門知識に基づいた正確な判断を下さなければなりません。

このような二つの道具を駆使して,最終到達目標としての「紛争の平和的解決能力を養うこと」こそが,法学部で学習した人々の責務なのです。

そのような責務に耐えうる能力を養うために,皆さんが,4年間,しっかりと法律を学習されることを願って,今回の講評を終えることにします。皆さんの今後のご健闘を祈ります。


参考文献


 

  • 民法の入門書
    • 加賀山茂『現代民法 民法学習法入門』信山社(2007)
    • 加賀山茂『民法入門・担保法革命』信山社(2013)(DVD付)
  • 民法(財産法)全体を理解する上での助っ人
    • 我妻栄=有泉亨『コンメンタール民法』〔第3版〕日本評論社(2013)
    • 金子=新堂=平井編『法律学小辞典』有斐閣(2008)
  • 契約法全体についての概説書
    • 加賀山茂『契約法講義』日本評論社(2009)

 

情報の引出しから情報の歴史地図へ


定年退職を前にして思うこと


昨日の2016年3月31日は,私にとっては,記念すべき日になるはずであった。というのも,明治学院大学の定年は,68歳であり,実は,昨日,私は定年退職して,この大学を去るはずだったからである。

ところが,2015年に法科大学院を廃止する代わりに,「法と経営学研究科」を設立して,私が,初代の委員長となったため,その完成年度まで,定年が延長されることになり,私は,もう1年間この大学にとどまることになった。

「法と経営学」とは,経営学と法学の学問分野に生起する諸問題について,経営学と法学の二つの観点から解決する方法を探究することを通じて,究極的には,両者を発展的に融合することをめざす学問である([加賀山・法と経営学序説(2013)1頁])。

それをもう少し具体的にイメージすると以下のような図となる。すなわち,「法と経営学」とは,具体的には,(1)組織自身,(2)金融市場,(3) 労働市場,(4)原材料市場,(5)製品市場,(6)政府関係という六つの学問分野に,法学の学問分野,すなわち,(1)会社法,(2)金融法,(3)労 働法,(4)契約法・知財法,(5)不法行為法・経済法,(6)行政法・税法をマッピングし,あらゆる組織に生起する問題を,法学と経営学の二つの観点か ら解決する方法を探究することを通じて,究極的には,法と経営学を発展的に融合することをめざす学問であるということができる。

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 経営学の学問分野 マッピングする法学の学問分野

もっとも,経営学,法学は,社会の要請に応じてダイナミックに変化する学問分野であるため,上記の図は,現時点での概念を表象するものに過ぎない([斎藤・法と経営学の視点(2014)287頁])。

2015年,明治学院大学大学院にわが国ではじめての「法と経営学」研究科が設立された。この研究科では,その主要科目であるビジネス総論では,法 学の教員と経営学の教員の二人の教員がひとつの教室に入り,経済小説や実際に生じた経営問題,判例を題材について,法学と経営学の二つの視点から問題解決 の方法を提示し,大学院生との間で議論を重ね,大学院生がグループ討論を通じて結論を導くという方法を取り入れている。

明治学院大学法と経営学研究所

 

そこで,来年の2017年3月31日が,私の明治学院大学法学部教授としての人生に終止符を打ち,両親が待ち望んでいる大分県の実家に帰り,新たな人生を歩むことになった。

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定年退職すると,元気がなくなるという話をよく聞くが,私の場合は,幸いにも,実家が農地なので,そこで晴耕雨読の生活を送るとともに,「日本民法典研究支援センター」というインターネットの組織を立ち上げたので,そこでの質疑応答を通じて,法教育の発展に残りの人生を楽しく送りたいと考えている。


明治学院大学での研究・教育活動を振り返る


明治学院大学での11年間を振り返ると,2005年に法科大学院の設立要員として法科大学院の教授に赴任してから9年間は,法科大学院の教授として法曹教育の改革に取り組むとともに,法学研究科の大学院改革に取り組んだ。

2012年5月6日の法科大学院の教授会で法科大学院の募集停止が決定されると,直ちに,5月14日に,経済学部の有志とともに,法科大学院に代わる研究科,後にその名を「法と経営学研究科」とする修士課程の研究科を創設する計画に取り掛かった。この計画は,明治学院大学の大学院改革の一環として位置づけられ,2013年2月22日に学長の諮問に答える答申「新大学院構想について」として公表され,2014年2月19日の連合教授会で承認された。文部省の設置審の審議も乗り越え,2014年10月29日に,「法と経営学研究科」は,わが国で最初の「法学」と「経営学」の双方の視点から問題解決を行うことを目的とする修士課程の大学院として設立が認可された。


大学教授として業績を伸ばすために必要な情報の「引出し」


大学を退職するに当たって,通常は,最終講義を行う。その際には,嫌でも自分の業績を振り返ることになる。

業績が少ないと,自分は大学でなにをしてきたのかと,憂鬱になるに違いない。そうならないうちに,定年退職の最終講義に何を述べるかを早くから考えておくのがよい。

その際には,大学教授は何をすべきかについて,よく考えるのがよい。職業としての研究者を目指す人も,すでに,大学教授になっている人も,自らの評価を厳しく行うためには,杉原厚吉『大学教授という仕事』水曜社(2010)をよく読み,大学教授は,その普遍的な責務として,以下の項目を実践すべきであるというのが私の考え方である。

この本で書かれている大学教授の仕事のうち,大切なものをピックアップすると,以下の3つになる。

  • コンスタントに独創的な論文を作成すること,
  • 独立した研究能力を有する課程博士(ドクター)を輩出すること,
  • 研究を遂行するための外部資金を調達すること

最終講義では,すべての教授が,以上の評価基準に従って,教授としての「自己評価」をすべきであるとすれば,大学教員は,就職したときから,自分の最終講義をするための準備をすればよいことになる。

目標実現するために有用なのが引き出しである。上の三つの項目について,引き出しを作って,日々,業績を蓄積し,いつでも,それを引き出せるようにしておくと,目標を実現するのに役立つ。


物理的引出しからアウトラインプロセッサへ


物理的な引出しは,書類等を入れてしまうと,インデックス以外は見えなくなってしまう。すっきりと整理されてよいのだが,中が見えないために,情報が整理されないままに,埋もれてしまう危険性があり,そうなると,情報の蓄積も進まない。

そこで便利になるのが,アウトラインプロセッサである。この中に情報を入れておくと,見出しだけにすることも,中身を見ることも自由自在となる。

たとえば,私は,民法の体系化の作業をこのアウトラインプロセッサ(OlivieneEditor)を使って行っているが,必要な箇所だけを見ることができ,しかも,どこからでも事由に作業をすることができるので,非常に便利である。

たとえば,民法の全体像を見るときには,見出しのレベルを1,すなわち,編だけを見ることができる。

Civ00All03

第1篇のうち,章だけをみたければ,章までに限定してみることができる。

Civ01General

さらに,条文のレベル,たとえば,1条だけを見たければ,そこに限定してみることができる。

CivilLawMap9s

たとえば,私の利用しているアウトラインプロセッサは,ディレクトリ単位で管理しているので,MS-DOSのコマンドプロンプトで構造を見ることもできる。現在の状況は以下の通りである。

Structure of Civil Code of Japan
├─1 Property law
│ ├─Part1 General provisions
│ │ ├─Chapter1 General principles
│ │ │ ├─Section1 Private and public interests
│ │ │ ├─Section2 Standard of act
│ │ │ │ ├─ Art. 1 al. 2 Principle of good faith
│ │ │ │ └─ Art. 1 al. 3 Prohibition of abuse of rights
│ │ │ └─Section3 Aim and Interpretation of civil law
│ │ │ └─Art. 2 Dignity and equality
│ │ ├─Chapter2-3 Person
│ │ │ ├─Chapter2 Natural person
│ │ │ │ ├─Secction1 Capacity to hold rights
│ │ │ │ ├─Section2 Capacity to legal act
│ │ │ │ │ ├─1. Majorities
│ │ │ │ │ ├─2. Minors
│ │ │ │ │ ├─3. Guardianship
│ │ │ │ │ ├─4. Guaratorship
│ │ │ │ │ ├─5. Assistance
│ │ │ │ │ └─6. Right of counterparty
│ │ │ │ ├─Section3 Domicile
│ │ │ │ ├─Section4-1 Management of absentee property
│ │ │ │ ├─Section4-2 Adjudication of disappearance
│ │ │ │ └─Section5 Presumption of simultaneous death
│ │ │ └─Chapter3 Juridical person
│ │ │ └─1. Establishment of juridical person
│ │ ├─Chapter4 Object of right
│ │ │ └─Classification
│ │ │ ├─1. Tangible or Intangible
│ │ │ │ └─Art. 85 Tangible
│ │ │ └─2. Principal or Appurtenance
│ │ │ └─Art. 88 Fruits
│ │ ├─Chapter5 Legal acts
│ │ │ ├─Section1 General provisions of legal acts
│ │ │ ├─Section2 Manifestation of intention
│ │ │ ├─Section3 Agency
│ │ │ │ ├─1. Condition of agency
│ │ │ │ ├─2. Sub-agency
│ │ │ │ ├─3. Conflict of agency
│ │ │ │ ├─4. Apparent agency
│ │ │ │ └─5. Unauthorized agency
│ │ │ ├─Section4 Void or Invalidity of legal acts
│ │ │ │ ├─1. Void
│ │ │ │ └─2. Invalidity
│ │ │ └─Section5 Conditions and Time limit
│ │ │ ├─Conditions
│ │ │ └─Time limit
│ │ ├─Chapter6 Calculation of period
│ │ └─Chapter7 Prescription
│ │ ├─Section1 General provisions
│ │ │ ├─1. Effect and waiver
│ │ │ ├─2. Interruption
│ │ │ └─3. Suspension
│ │ ├─Section2. Acquisitive prescription
│ │ └─Section3. Extinctive prescription
│ │ ├─1. Long term
│ │ └─2. Short term
│ ├─Part2 Real property law
│ │ ├─Chapter1 General provisions of real property
│ │ ├─Chapter2 Possessory rights
│ │ │ ├─Section1 Acquisition of possessory rights
│ │ │ ├─Section2 Effect of possessory rights
│ │ │ │ └─3. Possessory actions
│ │ │ ├─Section3 Extinction of possessory rights
│ │ │ └─Section4 Quasi-possession
│ │ ├─Chapter3 Ownership
│ │ │ ├─Section1 Extent of ownership
│ │ │ │ ├─Subsection1 Content and scope of ownership
│ │ │ │ └─Subsection2 Neighboring relationships
│ │ │ │ ├─1. Use of Land
│ │ │ │ ├─2. Water streams
│ │ │ │ ├─3. Boundary
│ │ │ │ └─4. Structure on land
│ │ │ ├─Section2 Acquisition of ownership
│ │ │ │ ├─1. Possession, finding and discovery
│ │ │ │ └─2. Accession, mixture and processing
│ │ │ └─Section3 Co-ownership
│ │ │ ├─1. Management of co-ownership
│ │ │ ├─2. Partition of co-owned thing
│ │ │ ├─3. Rights of common with nature of co-ownership
│ │ │ └─4. Quasi co-ownership
│ │ ├─Chapter3-2 Rights of usufructuary
│ │ │ ├─Chapter4 Superficies
│ │ │ ├─Chapter5 Emphyteusis
│ │ │ │ ├─1. Acquisition of Emphyteusis
│ │ │ │ └─2. Extinction of emphyteusis
│ │ │ └─Chapter6 Servitudes
│ │ │ ├─1. Acquisition of servitudes
│ │ │ ├─2. Extinction of servitudes
│ │ │ └─3. Common with the nature of servitudes
│ │ └─Chapter3-3. Real security
│ │ ├─Chapter07 Right of retention
│ │ │ ├─1. Acquisition of right of retention
│ │ │ ├─2. Effect of right of retention
│ │ │ └─3. Extinction of right of retention
│ │ ├─Chapter08 Statutory liens
│ │ │ ├─Section1 General provisions
│ │ │ ├─Section2 Kinds of statutory liens
│ │ │ ├─Section3 Order of priority of statutory liens
│ │ │ └─Section4 Effect of statutory liens
│ │ ├─Chapter09 Pledges
│ │ │ ├─Section1 General provisions
│ │ │ ├─Section2 Pledges of movables
│ │ │ ├─Section3 Pledges of immovable properties
│ │ │ └─Section4 Pledges of rights
│ │ └─Chapter10 Mortgages
│ │ ├─Section1 General provisions
│ │ ├─Section2 Effect of mortgages
│ │ │ ├─3. Disposition of mortgages
│ │ │ ├─6. Statutory superficies
│ │ │ └─7. Joint mortgages
│ │ ├─Section3 Extinction of mortgages
│ │ └─Section4 Revolving mortgages
│ │ └─4. Joint revolving mortgages
│ └─Part3 Obligation law
│ ├─Chapter1 General provisions of obligation
│ │ ├─Section1 Object of obligation
│ │ │ ├─1. Obligation to deliver things
│ │ │ ├─2. Monetary obligation
│ │ │ └─3. Alternative obligation
│ │ ├─Section2 Effect of obligation
│ │ │ ├─1. Internal effect
│ │ │ └─2. External effect
│ │ ├─Section3 Obligation of multiple parties
│ │ ├─Section4 Assignment of obligation
│ │ └─Section5 Extinction of obligation
│ │ ├─Novation
│ │ └─Payment (Performance)
│ ├─Chapter2 Contract
│ │ ├─General provisions
│ │ │ └─General provisions
│ │ │ └─Effect of contracts
│ │ └─Types of contracts
│ │ ├─Deposits
│ │ ├─Lease
│ │ └─Sale
│ ├─Chapter3 Management of business
│ │ ├─1. Ordinary Management of business
│ │ │ ├─Condition of management
│ │ │ └─Effect of management
│ │ └─2. Urgent Management
│ ├─Chapter4 Unjust enrichment
│ │ ├─General unjust enrichment
│ │ └─Special unjust enrichment
│ └─Chapter5 Tort
│ ├─General torts
│ │ ├─1.General torts by single tortfeasor
│ │ ├─2.General torts by several tortfeasors
│ │ └─3.Exemptions for tortfeasors
│ │ └─1.Incapacity for liability
│ └─Special torts
│ └─Liability of traffic accident
│ └─2. Causation
└─2 Family law
├─Part4 Relatives
│ ├─ Chapter2 Marriage
│ │ ├─ Section3 Marital Property
│ │ ├─ Section4 Divorce
│ │ └─Section1 Formation of Marriage
│ ├─Chapter3 Parent and Child
│ │ └─ Section2 Adoption
│ ├─Chapter4 Parental Authority
│ ├─Chapter5 Guardianship
│ │ └─Section2 Organs of Guardianship
│ └─Chapter6 Curatorship and Assistance
└─Part5 Succession (Inheritance)
├─Chapter3 Effect of Inheritance
├─Chapter4 Acceptance and Renunciation of Inheritance
│ └─Section2 Acceptance of Inheritance
└─Chapter7 Wills
└─Section2 Formalities of Wills

業績を着実に,かつ,広い範囲にわたって蓄積し,かつ,いつでも必要な箇所を取り出したり,公表したりしたいのであれば,情報の「電子的引出し」であるアウトラインプロセッサの利用をお勧めする。


情報の引き出しから情報地図へ


法解釈学の究極の目標は,たとえば,地図の比ゆを使って,民法の解釈学に限定して述べるならば,第1に,民法全体を一瞥できるような世界地図,第2に,総則,物権,債権,親族,相続の各編についての,日本地図,第3に,第1編第1章の民法総則に関する分県地図,第4に,民法1条1項に関する住宅地図,さらに加えて,民法1条に関する立法理由,文献,判例,改正案についてのストリートビューというように,民法に関するすべての情報が完備されており,それらを,Google Mapのように,シームレスに閲覧できるシステムを作成し,それを公開することであると,私は考えている。

この目標を達成することを,定年後の私の生活の一部としたい。

アウトラインプロセッサ(OlivineEditor)を使った民法の体系化(中間報告2)

アウトラインプロセッサを使った民法の体系化を進めています。前回は,民法総則の体系化について報告しました。Civ02Real今回は,物権法の体系化について報告します。

これまでは,物権法の体系を右の図ような系統図で示していました(白抜きは学術用語,その他は,法令用語です)。

全体図としては,わかりやすいし,それぞれの枝葉の部分にリンクをつけていくと,それなりの体系図となるのですが,やはり,全体の中の位置づけを示すには,アウトラインとして表現するのが一番だと思い,アウトラインプロセッサで条文,立法理由,文献,判例,改正案のレベルまで辿れるアウトラインを作成しつつあります。

アウトラインのうち,Windowsのコマンドプロンプトを使って,ディレクトリのレベルまでを示すと以下のようになります。すべての体系が完成するには,あと2年がかかる予定ですが,折り畳みが可能な動態的なアウトラインをどのようにネットで表現できるか,並行して追求していきたいと考えています。

Structure of Civil Code of Japan (民法の体系化(物権部分のみ))
│ ├─Part2 Real property law (第2編 物権)
│ │ ├─Chapter1 General provisions of real property (第1章 総則)
│ │ ├─Chapter2 Possessory rights (第2章 占有)
│ │ │ ├─Section1 Acquisition of possessory rights (第1節 占有権の取得)
│ │ │ ├─Section2 Effect of possessory rights (第2節 占有権の効力)
│ │ │ │ ├─2. Acquisition of title right by possession (本権の取得)
│ │ │ │ └─3. Possessory actions (占有訴権)
│ │ │ ├─Section3 Extinction of possessory rights (第3節 占有権の消滅)
│ │ │ └─Section4 Quasi-possession (第4節 準占有)
│ │ ├─Chapter3 Ownership (第3章 所有権)
│ │ │ ├─Section1 Extent of ownership (第1節 所有権の限界)
│ │ │ │ ├─Subsection1 Content and scope of ownership (第1款 取有権の内容及び範囲)
│ │ │ │ └─Subsection2 Neighboring relationships (第2款 相隣関係)
│ │ │ │ ├─1. Use of Neighboring Land (隣地の利用)
│ │ │ │ ├─2. Management of Water streams (水流の管理)
│ │ │ │ ├─3. Management of Boundary (境界の管理)
│ │ │ │ └─4. Neighboring Structure on land (隣地近傍の工作物)
│ │ │ ├─Section2 Acquisition of ownership (第2節 所有権の取得)
│ │ │ │ ├─1. Possession, finding and discovery (先占,拾得,発見)
│ │ │ │ └─2. Accession, mixture and processing (添付)
│ │ │ └─Section3 Co-ownership (第3節 共有)
│ │ │ ├─1. Management of co-ownership (共有物の管理)
│ │ │ ├─2. Partition of co-owned thing (共有物の分割)
│ │ │ ├─3. Rights of common with nature of co-ownership (共有の性質を有する入会権)
│ │ │ └─4. Quasi co-ownership (準共有)
│ │ ├─Chapter3-2 Rights of usufructuary (用益物権)
│ │ │ ├─Chapter4 Superficies (第4章 地上権)
│ │ │ ├─Chapter5 Emphyteusis (第5章 永小作権)
│ │ │ │ ├─1. Acquisition of Emphyteusis (永小作権の取得)
│ │ │ │ └─2. Extinction of emphyteusis (永小作権の消滅)
│ │ │ └─Chapter6 Servitudes (第6章 地役権)
│ │ │ ├─1. Acquisition of servitudes (地役権の取得)
│ │ │ ├─2. Extinction of servitudes (地役権の消滅)
│ │ │ └─3. Common with the nature of servitudes (共有の性質を有しない入会権)
│ │ └─Chapter3-3. Real security (担保物権)
│ │ ├─Chapter07 Right of retention (第7章 留置権)
│ │ │ ├─1. Acquisition of right of retention (留置権の性質)
│ │ │ ├─2. Effect of right of retention (留置権の効力)
│ │ │ └─3. Extinction of right of retention (留置権の消滅)
│ │ ├─Chapter08 Statutory liens (第8章 先取特権)
│ │ │ ├─Section1 General provisions (第1節 総則)
│ │ │ ├─Section2 Kinds of statutory liens (第2節 先取特権の種類)
│ │ │ ├─Section3 Order of priority of statutory liens (第3節 先取特権の順位)
│ │ │ └─Section4 Effect of statutory liens (第4節 先取特権の効力)
│ │ ├─Chapter09 Pledges (第9章 質権)
│ │ │ ├─Section1 General provisions (第1節 総則)
│ │ │ ├─Section2 Pledges of movables (第2節 動産質)
│ │ │ ├─Section3 Pledges of immovable properties (第3節 不動産質)
│ │ │ └─Section4 Pledges of rights (第4節 権利質)
│ │ └─Chapter10 Mortgages (第10章 抵当権)
│ │ ├─Section1 General provisions (第1節 総則)
│ │ ├─Section2 Effect of mortgages (第2節 抵当権の効力)
│ │ │ ├─3. Disposition of mortgages (抵当権の処分)
│ │ │ ├─6. Statutory superficies (法定地上権)
│ │ │ ├─7. Joint mortgages (共同抵当)
│ │ │ └─8. Nobless oblige in mortgagees (抵当権におけるノブレス・オブリージュ)
│ │ ├─Section3 Extinction of mortgages (抵当権の消滅)
│ │ └─Section4 Revolving mortgages (根抵当)
│ │ └─4. Joint revolving mortgages(共同根抵当)

コマンドプロンプトの”tree”命令のデフォルトを利用しているので,一部ディレクトリが省略されてしまっています(なぜ,欠落が生じるのか不明です)。

もちろん,”tree/f”の命令を使うと,ファイルのレベルまでツリーを描くことができるのですが,これだと,あまりにも複雑になるので,今回は,ディレクトリのレベルで表示しています。

今後,ファイルのレベルでの入力が進めば,不要なファイルを除去するプログラムを作成して,すべての条文のレベルまで表示した体系図を示すつもりです。

アウトラインプロセッサ(OlivineEditor)を使った民法の体系化(中間報告1)


アウトラインプロセッサ(OlivineEditor)を使った民法の体系化の試み(総則まで)


Routine民法は,パンデクテン方式という編別方式を採用しています。

このパンデクテン方式というのは,各編,各条文の共通部分を抜き出して,総則として,前に出してまとめるという方式であり,コンピュータのプログラムに似た構造を有しています。

すなわち,各編(たとえば,物権編とか,債権編の契約の類型に基づいた「契約の流れ」とか)がメインルーティンであり,民法総則がサブルーティンに該当すると考えることができます。


従来の体系化の試み(静態的な体系図)


このため,民法の体系を図式化すれば,民法の全体像がわかりやすくなると考え,たとえば,以下のような図を作成してきました。

CivSystem1

Civ00All03左の図のように,もう少し簡潔に表示することもできますが,これでは,体系図としては,貧弱すぎます。

しかし,これらの図は,いずれにせよ,全体像を示すこと以外の機能を持ちません。この体系に,条文や文献,判例等を追加しようとすると,図画途方もなく大きくなり,一つの図として示すことができなくなります。

Civ01Generalもちろん,以下に示す,民法総則の全体像は,右の図のように簡潔に示すことができますし,それぞれの枝葉にリンクをつけることで,かなり深くまで表示することができるのですが,条文の内容,立法理由,学説,判例まで表示することはできません。


アウトラインプロセッサを使った動態的な体系図


しかし,アウトラインプロセッサを使って,民法を体系化すると,レベル1のノードだけ見せて,後は折りたたんだり,ある部分について,すべてのレベルまで展開したりすることができます。これは,あたかも,Googleマップで世界地図から,日本地図,分県地図,住宅地図のように,概略図から,詳細な図まで,自由自在に行き来できるようになるのと同じです。

以下の図は,アウトラインプロセッサを使って作成中の民法の体系をWindowsのディレクトリのレベルまで展開したものです。Windowsのコマンドプロンプトで,”tree”というシステム述語を用いると,以下のような,ツリー構造を示してくれます。


Structure of Civil Code of Japan(民法民法典の体系)
├─1 Property law(財産法)
│ ├─Part1 General provisions(第1編 総則)
│ │ ├─Chapter1 General principles(第1章 通則)
│ │ │ ├─Section1 Private and public interests(私権と公共の福祉との関係)
│ │ │ ├─Section2 Standard of act(私人の行動原理)
│ │ │ │ ├─ Art. 1 al. 2 Principle of good faith(信義則)
│ │ │ │ └─ Art. 1 al. 3 Prohibition of abuse of rights(権利濫用の禁止)
│ │ │ └─Section3 Aim and Interpretation of civil law(民法の目的と解釈)
│ │ │ └─Art. 2 Dignity and equality(個人の尊厳と両性の本質的平等)
│ │ ├─Chapter2-3 Person(人)
│ │ │ ├─Chapter2 Natural person(第2章 自然人)
│ │ │ │ ├─Secction1 Capacity to hold rights(第1節 権利能力)
│ │ │ │ ├─Section2 Capacity to legal act(第2節 行為能力)
│ │ │ │ │ ├─1. Majorities(成年)
│ │ │ │ │ ├─2. Minors(未成年)
│ │ │ │ │ ├─3. Guardianship(成年後見)
│ │ │ │ │ ├─4. Curatorship(保佐)
│ │ │ │ │ ├─5. Assistance(補助)
│ │ │ │ │ └─6. Right of counterparty(制限能力者の相手方の権利)
│ │ │ │ ├─Section3 Domicile(第3節 住所)
│ │ │ │ ├─Section4-1 Management of absentee property(第4節 不在者の財産管理)
│ │ │ │ ├─Section4-2 Adjudication of disappearance(第4節 失踪宣告)
│ │ │ │ └─Section5 Presumption of simultaneous death(第5節 同時死亡の推定)
│ │ │ └─Chapter3 Juridical person(第3章 法人)
│ │ │ └─1. Establishment of juridical person(法人の設立)
│ │ ├─Chapter4 Object of right(第4章 物)
│ │ │ └─Clasification(物の種類)
│ │ │ ├─1. Tansible or Intangible(有体物と無体物)
│ │ │ │ └─Art. 85 Tangible(有体物)
│ │ │ └─2. Principal or Appurtenance(主物と従物)
│ │ │ └─Art. 88 Fruits(元物と果実)
│ │ ├─Chapter5 Legal acts(第5章 法律行為)
│ │ │ ├─Section1 General provisions of legal acts(第1節 総則)
│ │ │ ├─Section2 Manifestation of intention(第2節 意思表示)
│ │ │ ├─Section3 Agency(第3節 代理)
│ │ │ │ ├─1. Condition of egency(代理の要件)
│ │ │ │ ├─2. Sub-agency(復代理)
│ │ │ │ ├─3. Conflict of agency(利益相反)
│ │ │ │ ├─4. Apparent agency(表見代理)
│ │ │ │ └─5. Unauthorized agency(無権代理)
│ │ │ ├─Section4 Void or Invalidity of legal acts(第4節 無効及び取消し)
│ │ │ │ ├─1. Void(無効)
│ │ │ │ └─2. Invalidity(取消し)
│ │ │ └─Section5 Conditions and Time limit(第5節 条件と期限)
│ │ │ ├─Conditions(条件)
│ │ │ └─Time limit(期限)
│ │ ├─Chapter6 Calculation of period(第6章 期間の計算)
│ │ └─Chapter7 Prescription(第7章 時効)
│ │ ├─Section1 General provisions(第1節 総則)
│ │ │ ├─1. Effect and waiver(時効利益とその放棄)
│ │ │ ├─2. Interruption(時効の中断)
│ │ │ └─3. Suspension(時効の停止)
│ │ ├─Section2. Acquisitive prescription(第2節 取得時効)
│ │ └─Section3. Extinctive prescription(第3節 消滅時効)
│ │ ├─1. Long term(長期消滅時効)
│ │ └─2. Short term(短期消滅時効)


アウトラインプロセッサの中身には,この下に,条文,文献,判例を順次追加しているのですが,そこまで展開すると,詳細に過ぎるので,ここでは,ディレクトリができている部分に限定して一覧をしています。

この後も,アウトラインプロセッサで民法の体系化の作業を進めていきます。

アウトラインプロセッサの利用の薦め


アウトラインプロセッサの効用


文書を作成する際に,皆さんはどのようなエディタをお使いでしょうか。私は,以前に,Macを使っていた頃は,ACTAというアウトラインプロセッサ(アイディアプロセッサともいう)で文章を書いていました。ここでは,Windowsでも利用することができる優れたアウトラインプロセッサであるOliveneEditorを紹介したいと思います。

アウトラインプロセッサとは何か

アウトラインプロセッサ(outline processor or outliner)というのは,文書のアウトライン構造(全体の構造)を定めてから,細部を編集していくために用いられる文書作成ソフトウェアのことです。パソコンで文章を構造化して書くのであれば,このエディタで書くことをお勧めします。

たとえば,以下のように,文章を,第1章,第1節,第2節,第2章,第4節,第5節,結論という構成をしたとしましょう。

第1章 問題提起

第1節 従来の考え方とその問題点

第2節 問題解決のための仮説の提示

第2章 具体的な問題についての解決方法

第4節 仮説による解法と検証

第5節 従来の考え方との差

結論 困難な問題の解決

このような構造化された文章を書く場合に,通常のエディタとか,ワープロを使って書く場合には,初めから順番に書くのが普通でしょう。もしも,途中から書くとなると,それまでのページをスクロールして該当箇所にたどり着かなければならず,しかも,さまざまな箇所を行ったり来たりしている間に,全体の構成がわかりにくくなってしまうことがあります。

この点,アウトラインプロセッサを使って文章を書くと,構造のレベルが,たとえ,編,章,節,款…というように,構造の深さのレベルを深めていくことができますし,不要な章や節を折りたたんで見えなくすることによって,書いている箇所に神経を集中させることができます。

アウトラインプロセッサは,現在書いている以外の部分を一時的に「隠す機能」を有しているため,第1章と第2章を折りたたんで見えなくして,結論に飛んで,そこから書き始めたり,そこで思いついたアイデアをいきなり第2章第4節に飛んで,その部分を書いたりということが,スムーズにできます。

しかも,構造自体が一かたまりとなっているため,たとえば,第2章第4節を,第1章の第3節へと,ごっそりと移転したいという場合にも,それまで書いた第2章4節の文章が,どれほど大量になっていたとしても,クリックして一まとめにして,第1章の最後の箇所に,一瞬で移転することができます。

従来のアウトラインプロセッサの問題点

アウトラインプロセッサは,もともとは,文章を構造化しながら作成するための道具でしたから,出力については,たいした機能をもたず,アウトラインプロセッサで作成した文章は,ワープロを使って印刷すればよいと考えられてきました。

しかし,構造化した文章を出力する際には,たとえ,ワープロを利用するにしても,体裁を整えるなどの面倒な作業はしなくてすむような機能を有していることが必要でしょう。

私が,以前使っていたアウトラインプロセッサは,残念ながらそのような機能を有していなかったために,私は,その後,アウトラインの機能と美しい出力機能を合わせて持つWordのアウトライン機能を使って,文章を作成してきました。

ワープロの付属機能としてのアウトラインプロセッサの問題点

確かに,Wordなどのワープロに付属しているアウトライン機能を使うと,出力との連携が保証されます。しかし,Wordにおいては,アウトラインは,あくまで,付属機能に過ぎないため,レベルが9までに制限されています。したがって,それ以上に深いレベルを必要とする文章には対応できません。

もちろん,通常の論文であれば,構造のレベルが9を超えるようなことは生じないでしょうし,レベルが9を超えるような論文は,複雑すぎて,読み手にとって迷惑となるおそれがあります。

しかし,私は,民法をアウトラインプロセッサを使って体系化し,しかも,わかりやすく記述するという試みを行っています。民法を体系化しようとすると,構造のレベルは,軽く9を超えてしまいます。たとえば,瑕疵担保責任(民法第570条)にいたるまでの経路を辿ってみましょう。

そのレベルは,1. 民法,2. 財産法,3. 債権,4. 債権各論,5. 契約,6. 契約各論,7. 財産権を移転する契約,8. 売買,9. 売買の効力,10. 担保責任というように,レベルが10まで必要なことがわかります。

1 民法

2 財産法⇔家族法

3 債権⇔総則,物権

4 債権各論⇔債権総論

5 契約⇔事務管理,不当利得,不法行為

6 契約各論⇔契約総論

7 財産権移転契約⇔物の利用契約,…

8 売買⇔贈与,…

9 売買の効力⇔買戻し,…

10 瑕疵担保責任⇔追奪担保責任

したがって,私は,レベルを9までしか深めることができないWordを使って,民法を記述することをあきらめました。

OlivineEditor による問題の解決

Wordを使って民法の体系化を実現する試みを断念した私は,Windowsで使えて,構造化のレベルが無限であり,しかも,完成された文章が,面倒な整形を施すことなく,ワープロ等で印刷可能となるアウトラインを探してみました。

すると,OlivineEditorというアウトラインプロセッサが見つかりました。OlivineEditorを試しに使ってみると,アウトライン機能はもちろんのこと,表示機能も優れており,テキストとHTMLとがワン・クリックで入れ替わるだけでなく,HTMLのタグ付のファイルも表示することができるため,出来上がった作品をそのままWebサイトに掲示することができることがわかりました。

印刷されたのと同様の画面にワンタッチで切り替えることができるということは,文章の誤りを見つける上でも非常に有用です。私は,構造化テキストを作成する途中で,常に,ワンタッチでHTMLでの表示画面をみて,見栄えを確認しています。出力画面で自分の書いた文章を読んでみると,テキストで作成していたときには見過ごしていた誤りを発見すことができるからです。

民法全体をアウトラインプロセッサで記述する試み

現在,私は,上記のOlivineEditorというアウトラインプロセッサを使って,民法の体系化と,それぞれの項目の解説文を作成中です。

構造化が無限にできること,作成した構造がWindowsのプロンプトを使って美しいツリー構造に表現できること,解説文を作成する段階で最終的な出力画面を見ながら誤りの訂正に気づくことができることなど,OliveneEditorの機能がとても気に入っています。

そして,このアウトラインプロセッサを使ってみると,自分の知識を構造の中のどの部分に蓄積すると知識が効率的に伝達できるかが発見できることに気づきました。全体の知識の中で,部分的な知識がどのように位置づけられているかについて,ツリー構造で一覧できるOliverEditorは,Windowsのシステムの下で体系的な文章を作成するのに最も適したアウトラインプロセッサではないかと,私は考えています。

民法における体系的思考の第一歩としての第一編第一章(通則)


民法における体系的思考の第一歩
-「通則」とは何か


民法の目的

民法の目的は,世の中に生起する民事事件(紛争の目的が,加害者に刑罰を与えるかどうかが争われる事件ではなく,紛争の目的が,被害者に救済を与えるべきかどうかが争われる事件)を,「平和的に」(すなわち,力で解決するのではなく,ルールによって),かつ,「合理的に」(すなわち,吹っかけ合いに続く妥協の産物ではなく,合理的な根拠に基づく当事者双方の納得によって)解決するために,紛争解決の一般基準(民法体系)をすべての市民に与えることです。

そのような平和的な紛争解決の一般基準(民法体系)に従って紛争を解決することが,なぜ望ましいかというと,そのことを通じて,民法の究極の目的としてわたくしたちがが希求すべき,「公共の福祉」と「個人の尊厳と両性の本質的平等」(憲法第13条,第24条)とを同時に実現することができるからです。

 民法第1条と第2条との関係

民法第1条は,公共の福祉を実現するために,私権の公共の福祉への適合性(第1条第1項),契約自由の信義則による制限(第1条第2項),権利の濫用の禁止(第1条第3項)というように,私権を制限する方向で規定を行っています。

これに対して,民法2条は,第1条を前提としつつも,私権が市民に与えられる目的が,個人の尊厳と両性の本質的平等を実現するためであることを明らかにしています。

このように,民法第1条と第2条とは,お互いに補い合って,公共の福祉,および,個人の尊厳と両性の本質的平等とを同時に実現しようとしています。

民法第1編(総則)第1章の「通則」の意味

現行民法(明治29(1986)年法律第89号)が公布されときの民法第1条は,「私権の享有ハ出生に始マル」でした。この規定は,現在は,民法第3条第1項に移されていますが,これが,立法当初の民法の最初の条文でした。

ここでのタイトルである「第1章 通則」という章立て自体は,民法の立法当初はもちろんのこと,1947年の民法大改正を経た後にも,実は,存在しなかったのです。

「第1章 通則」という章立ては,2004年(平成16年)12月1日に公布され,2005年(平成17年)4月1日に施行された「民法の現代語化」の際に,現行民法に追加されたものです。このように,「第1章 通則」の章立て自体は,2004年の現代語化以降の産物なのです。

ただし,そに含まれる条文である,民法第1条第1項(私権の公共の福祉適合性),第2項(信義則),第3項(権利濫用の禁止)と,第2条(個人の尊厳,両性の本質的平等)は,それ以前の昭和22(1947)年の民法大改正(主として民法第四編第五編(親族・相続編)の大改正の際に追加されたものですので,民法に追加された条文としては,最も長い歴史を有しています。

一般的な意味での通則とは何か

ところで,民法第1編(総則)第1章のタイトルである「通則」とは,どのような意味なのでしょうか。

結論を先取りして述べると,「通則」とは,メタ規範,すなわち,上位規範という意味です。

通則という用語が用いられている典型的な例としては,「通則法」(正式名は,「法の適用に関する通則法」)があり,その規定の特色を理解すると,「通則」の意味が明らかになります。

通則法は,その第2条で,法律の効力の発生時期について,以下のように定めています。

すべての法律の効力は,公布の日から起算して20日を経過した日から施行する。

この法律は,すべての法律について,その効力を規定している(法律は国会の議決を経ても,その段階では,原則として,効力を有せず,施行の時から効力を生じる)のであるから,すべての法律の上位法,すなわち,メタ法律なのです。

CivilLawMap4sまた,通則法第3条は,すべての慣習法とすべての制定法との関係について,以下のように定めています。

公の秩序又は善良の風俗に反しない慣習は,法令の規定により認められたもの又は法令に規定されていない事項に関するものに限り,法律と同一の効力を有する。

さらに,通則法,第4条以下で,準拠法に関する通則(国際私法)を定めています。

国際私法がなぜ,通則法に納められているかというと,国際私法とは,国際結婚・離婚とか,国際取引とかの国際事件について,その事件について,日本法を適用すべきか,それとも,外国法を適用すべきか,もしも,外国法を適用するとすると,どこの国の法律を適用するかを定めているからです(国内の民事事件であれば,民法が適用されますが,渉外事件の場合には,通常なら適用される民法の規定が,外国法の適用が優先されることによって,効力を生じないことがあります)。

このようにすべての法律(第4条以下については,すべての外国法が含まれます)について,外国法を適用すべきか,日本法を適用すべきかという,個々の法律を超えて,適用すべき法律を決定する上位法(メタ法)は,通則法と呼ばれるのです。

民法第1編(総則)第1章(通則)の意味

民法第1編は総則であり,総則は,各則の上位規範です。そして,その総則を含めて,民法のすべての条文の上位に君臨するのが,第1章の通則として位置づけられている民法第1条(基本原則)と民法第2条(解釈の基準)です。

CivilLawMap5s憲法が法律の上に位置する上位規範であることは,憲法第10章(最高法規)の第98条において,以下のように宣言していることからも明らかです。

 ①この憲法は,国の最高法規であつて,その条規に反する法律,命令,詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は,その効力を有しない。

なお,わが国において,法律(約2,000件弱),政令(約2,000件強),府令・政令(約4,000件弱),規則(約300件強)が,正確に何件存在するのかについての最新情報を知りたければ,総務省の「法令提供システム」の「お知らせ」 のページを参照するとよいと思います。

憲法がすべての法律の上位規範であるように,民法においても,民法総則の最初に位置する「通則」の規定は,民法のすべての規定の「ただし書き」であるかのように,民法のすべての規定に対して,その効力を制限したり,解釈の基準を示す働きをしています。

たとえば,契約自由の原則は,民法91条(任意規定と異なる意思表示),民法420条(賠償額の予定)によって,当然に認められており(いわゆる「もちろん解釈」),2015年に国会に提出された,民法改正案第521条(契約の締結及び内容の自由)では,以下のように,「契約自由の原則」が明文で規定されることになります。

民法改正案(2015)
第521条(契約の締結及び内容の自由)
①何人も,法令に特別の定めがある場合を除き,契約をするかどうかを自由に決定することができる。
②契約の当事者は,法令の制限内において,契約の内容を自由に決定することができる。

CivilLawMap9sしかし,このような民法の基本的な考え方とか条文案も,民法1条,2条の「通則」によって,制限を受けます。

その意味で,第1条,および,第2条は,民法のすべての規定の上位規定(メタ規定)という意味で,「通則」と名づけられているのです。

民法以外における「通則」規定の意味と課題

参考までに,商法も,第1編(総則)の第1章は,通則とされています。第1条第2項は,以下のように規定されています。

商事に関し,この法律に定めがない事項については商慣習に従い,商慣習がないときは,民法 (明治29年法律第89号)の定めるところによる。

この規定は,ある事案について,民法の適用と商法の適用が問題となったときには,特別法である商法が一般法である民法に優先して適用されることを宣言したものです。本来は,自らの法が適用されるか,その他の法律が適用されるかを定めるのは,自らが決めることはできないはずです。このような場合こそ,通則法が定めるべき事項なのです。

商法が通則法の代わりに,通則法の役割を果たすことになったのは,わが国おいて,近代法が制定され始めた頃の混乱から,たまたま商法の内部に法例の規定が入り込んでしまったという歴史的な経緯によるものです。

したがって,現代においては,商法第1編(総則)第1章(通則)のうちの第1条,刑法第1編(総則)第1章(通則)の1条~8条の国内犯・国外犯の規定は,法の体系という観点からは,それぞれの個別の法典で規定するのではなく,通則法に移すのが適切であると思われます。

民法第2条と憲法13条,憲法24条との関係

民法第2条が,民法が実現すべき目的として掲げている「個人の尊厳と両性の本質的平等」は,憲法では,第13条と第24条とで以下のように規定されています。

憲法第13条【個人の尊厳,幸福追求権,公共の福祉】
すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。

憲法第24条【家族生活における個人の尊厳と両性の本質的平等】
①婚姻は,両性の合意のみに基いて成立し,夫婦が同等の権利を有することを基本として,相互の協力により,維持されなければならない。
②配偶者の選択,財産権,相続,住居の選定,離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては,法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して,制定されなければならない。

特に,憲法第24条第2項のうちの「家族に関する…の事項に関しては,法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して,制定されなければならない」という部分こそが,民法第2条が規定された理由です。

民法1条1項と憲法29条2項との関係は,美しい相聞歌にたとえることができます。憲法29条2項の要請を民法1条1項がしっかりと受け止めているからです。

このスタイルが踏襲されるのであれば,民法2条は,憲法24条2項の要請を受け入れて,以下のように規定されるべきであったと思われるというのが,私の見解です。

民法第2条の理想的な条文(改革案)
①この法律の目的は,個人の尊厳と両性の本質的平等を実現することにある。
②この法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として,解釈されなければならない。

しかし,現状では,民法第2条は,理想的な第2条のうちの第2項のみを規定した形となっています。その原因は,民法の家族編には,いまだに,男女の本質的な平等に反する規定が以下のように,数多く残されているからです。

第731条(婚姻適齢)
男は,18歳に,女は,16歳にならなければ,婚姻をすることができない。

第733条(再婚禁止期間)
①女は,前婚の解消又は取消しの日から6箇月を経過した後でなければ,再婚をすることができない。
②女が前婚の解消又は取消しの前から懐胎していた場合には,その出産の日から,前項の規定を適用しない。

第750条(夫婦の氏)(実質的な男女不平等:9割の女が夫の氏を称している)
夫婦は,婚姻の際に定めるところに従い,夫又は妻の氏を称する。

第762条(夫婦間における財産の帰属)(実質的な男女不平等:主要な財産が夫の単独名義となっていることが圧倒的に多い)
①夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は,その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
②夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は,その共有に属するものと推定する。

第774条(嫡出の否認)
第772条〔嫡出の推定〕の場合において,夫は,子が嫡出であることを否認することができる。

第775条(嫡出否認の訴え)
前条の規定による否認権は,子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う。親権を行う母がないときは,家庭裁判所は,特別代理人を選任しなければならない。

第776条(嫡出の承認)
夫は,子の出生後において,その嫡出であることを承認したときは,その否認権を失う。

第777条(嫡出否認の訴えの出訴期間1)
嫡出否認の訴えは,夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならない。

第778条〔嫡出否認の訴えの出訴期間2〕
夫が成年被後見人であるときは,前条の期間は,後見開始の審判の取消しがあった後夫が子の出生を知った時から起算する。

第779条(認知)(判例による男女不平等の解釈の一般化:母子関係は,認知ではなく,分娩の事実による(最高裁昭和37年判決:最二判昭37・4・27民集16巻7号1247頁))
嫡出でない子は,その父又は母がこれを認知することができる。

今後の課題

民法2条を理想的な規定に近づけるためには,上記のような民法の男女不平等の規定を改正するとともに,条文上は,男女平等のように見えて,実は,男女不平等を助長している条文,または,判例によって,男女不平等に解釈されている判例を変更することが必要です。

民法の現状に鑑みると,民法の通則は,以下のように,第1項で,私権の積極的な側面である,私権の目的とその実現について規定し,第2項で,私権の公共の福祉,信義則,権利濫用の禁止に基づく,私権の制限について規定すべきではないかと,私は,考えています。

民法第1編 総則 第1章 通則(改正私案)

第1条(私権の目的と実現の方法)
①この法律は,私人間において,個人の尊厳と両性の本質的平等が実現されることを目的とし,その目的を達成するために,個人の自由の権利を保障するとともに,他人に生じる損害を最も少なくするように配慮する義務について規定する。
②この法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として,解釈しなければならない。

第2条(私権の尊重とその制限)
①私権は,個人の尊厳とともに,公共の福祉に適合するように規定されなければならない。
②権利の行使及び義務の履行は,信義に従い誠実に行わなければならない。
③権利の濫用は,これを許さない。

民法が対象とする人の社会が進展し,変化していくものである以上,社会規範である民法も,常に,それをよりよいものへと作り変えていかなければなりません。このことを実現するためにも,民法全体の体系的な理解が必要となります。


 

全体的理解と部分的理解とをどのように調和させるか

 


部分的理解と全体的理解との関係

日本全図,分県地図から住宅地図へ,同様に,民法の目次,条文から判例へ


民法の全体的な理解がないと民事の事例問題は解決できません。しかし,学習する立場からすれば,一挙に全体的な理解に到達することができるわけではなく,部分的な理解から徐々に始めるしかありません。全体的な理解ができていないうちから,事例問題を解かなければならなくなったとすれば,どうすればよいのでしょうか。今回は,この問題を検討してみようと思います。

全体的理解と部分的理解との関係を検討するに際しては,日本全図と分県地図で目的地を探す場合を例にとるのがわかりやすいように思われます。

たとえば,あなたが,日本民法典研究支援センターの会員となり,そこを訪ねることになったとしましょう。目的地の住所を見ると,大分県速見郡日出町となっています。あなたが東京いにいるとして,日本地図を見て,どのような交通機関を使うかを調べてみましょう。大分県が,九州にあり,東京からは,かなり遠いところにあることがわかれば,列車を使うか,飛行機を使うかの選択をしなければなりません。次に,住所が列車の駅から近いか,飛行場から近いかを知らなければなりません。つまり,最寄り駅がどこか,最寄の空港がどこにあるのか,出発点から,到達点までにかかる費用,時間,利便性を考慮して,どのような方法をとるかを決定しなければなりません。

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 日本全図で概要を知る 民法の体系目次で,あたりをつける

大分県は,東京からかなり離れているので,列車で行くか,飛行機でいくかの選択に際しては,日本全図が便利です。しかし,最寄り駅,または,空港に到着してからは,縮尺の大きな分県地図が便利ですし,最後の目的地にたどり着くには,市町村単位の住宅地図の力を借りなければならないでしょう。

民法の学習もこれに似ています。問題解決をするには,問題に適用されるべき民法の条文がどこにあるのかを探さなければならないのですが,いきなり,適用されるべき条文を探すのではなく,その問題が,相続争いの問題なのか,交通事故の問題なのか,契約不履行の問題なのか,大枠で検討をつけるには,民法の目次から探すのが便利です。地図でいえば,日本全図です。

大枠が交通事故などの複数当事者がからむ不法行為事件であるとすると,特別法である自賠法3条のほかに,民法709条から724条までの条文が適用されることがわかります。そのことがわかれば,次に,それらの法律の条文を読んでいくことになる。地図のたとえでいえば,日本全図から的を絞って,分県地図を見ることになります。

 Map03s  CivilLawMap2s
詳細地図で方針を練る 体系目次から条文へとつなげる

適用すべき条文がわかれば,その条文の意味をコンメンタールで調べ,さらに,似たような事件がどのように解決されたかを知るために,その条文についてどのような判例があるのかを調べることが必要です。地図のたとえでいえば,最寄り駅から目的地までの住宅地図を見ながら目的地にたどり着かなければならりません。

法律問題を解くためには,このように,問題解決をするためには,いくつも法律文献を紐解きながら,的を絞っていく必要があります。

最新の地図であるGoogleマップならば,東京から目的地までを一望しておき,交通機関が決まったら,目的の駅なり空港に的を絞り,そこから目的地までの詳細な経路をたどるということになります。

法律の学習も同じことです。第1に,全体像を知るためには,六法の目次を活用して,全体像を把握します。第2に,問題が絞れたら,関連する条文をよく読み,その意味を辞書やコンメンタールで理解します。そして,最後に,その条文に関連する判例のうち,問題となる事件に似たような判例を探し出して,その事件が裁判所で争われたらどのような結果が生じるかを検討します。

このような地道な学習を積み重ねることによって,いきなり,困難な問題に直面した場合にも,その問題を解決すべき条文を探し出し,問題の事例に似た判例を見つけ出して,問題解決の指針とすることができるようになるのです。


 

面白い本の紹介(鈴木敏文=勝見明『働く力を君に』講談社(2016/1/20))


常識を覆すやり方で次々と成功を導いてきた筆者(鈴木敏文:セブンイレブンの生みの親)が読者に伝える「仕事の仕方」


本書で著者が伝えたい「仕事の方法」


筆者がこの本で社会人になろうとする人々に伝えたいと考えている「仕事の仕方」とは,本書の最後の部分にまとめられており,その要旨は,以下の通りです。

「自分の頭で考え,仮説を立て,答えを導いていく。その際,変わらない視点をもち,ものごとの本質を見抜き,できるだけ難しく考えずに単純明快に発想し,迷わず決断し,実行すること」である。

これだけだと,常識的な「仕事の仕方」だと思われるかもしれませんが,この本の著者は,小型店が大型店に太刀打ちできるはずがないという世間の常識を覆し,セブンイレブン第1号店を出店し,その後,セブンイレブンを日本一のコンビに育て上げ,セブン銀行まで創設した猛者なのですから,「常識どおりの仕事の仕方」と簡単に片付けるわけにはいきません。


著者の「仕事の方法」のついての疑問点とその解答


この結論部分を詳しく検討してみると,その実行は,そう簡単でないことがわかります。

第1に,「自分の頭で考える」ということですが,これが結構難しいのです。他人の「ものまね」ではだめだとしても,素人が自分の頭で考えて,それで玄人に太刀打ちができるのでしょうか。

第2に,「仮説を立て,〔検証を通じて〕答えを導いていく」ということですが,素人が,自分の頭で考えたくらいで,簡単に仮説を立てることができるのでしょうか。また,その仮説を検証するのに,時間とお金を誰かが出してくれるものでしょうか。

第3に,筆者は,「変わらない視点を持つ」ことが大切とされていますが,筆者は,他方では,変化の激しい次代においては,これまでの知識や過去の成功にとらわれず,常に変化する「お客様の視点にたって考える」ことを重視しています。変わらない視点を持つことと,変化する社会の動きにとは別の「変わらない視点」を持って「ものごとの本質を見抜くことが可能なのでしょうか。

第4に,素人が,「できるだけ難しく考えずに単純明快に発想し,迷わず決断し,実行する」などいうことをやったら,それこそ,社会に大混乱が発生するのではないでしょうか。

第5に,そもそも,流行を追って考えがめまぐるしく変化する「顧客の視点」に立つことは,「変わらない視点を持つ」ことと矛盾するのではないでしょうか。また,顧客の視点に立つということと,自分の頭で考えるということも矛盾しているのではないでしょうか。第1から第4までの考えの中に一貫した理念は存在するのでしょうか。

本書は,このような疑問に対して,筆者の常識破りの考え方が,実は,一貫した考え方に基づいていることを明らかにしており,優れた啓蒙書となっています。

詳しくは,本書を読んでいただくほかありませんが,最も重要な観点というのは,惰性に傾きやすい自分と,「お客様の立場に立った」自分とを対立させ,その間でコミュニケーションをとることによって,自分自身を成長させていくという方法であり,その方法を突破口として,以上の5つの点を矛盾なく解決することができることが詳しく語られています。


みんなに反対されることは,たいてい成功し,みんなが賛成することは,たいがい失敗するとは?


ところで,本書では,「みんなに反対されることは,たいてい成功し,みんなが賛成することは,たいがい失敗する」という,これまでの常識を覆す,それでいて,なかなか意味深い文章が何度か繰り返されています。私は,本書を読みながら,その理由を考えてみました。私が考えた回答は,以下の通りでした。

「みんなが反対することは,これまでとは異なる時代を先取りしていることが多いので,たいてい成功する。これに対して,みんなが賛成することは,過去の蓄積に沿っているだけのことなので,時代が変わるときには,失敗する。」

種明かしになってしまいますが,本書の最後の方に,この問題に関する筆者自身の答えが,以下のように披露されています。

みんなが賛成することは,「それを実現する方法がすでに存在しているか,もしくは,容易につくり出せるので,誰もが参入しようとする。」〔その結果,無意味な過当競争(いわゆるレッド・オーシャン)に陥って失敗してしまう〕。
「一方,何かを始めようとするとき,多くの人に反対されるのは,現状ではそれを実現するのが難しいか,実現する方法そのものが容易に考えられないからです。」〔その結果,いわゆるブルー・オーシャンが開かれることになる。〕

「実現するのが難しいか,実現する方法そのものが容易に考えられない」という状況を乗り越えていく方法について,筆者は,以下のように述べています。

「一歩先の未来に目を向け,新しいものを生み出そうとするとき,目的を実現する方法がないなら,自分たちでつくり上げていけばいい。必要な条件が整っていなければ,その条件を変えて,不可能を可能にすればいい。壁にぶつかったときはものごとを難しく考えず,もっとも基本の発想に立ち戻るべきなのです。」

皆さんも,著書を読みながら,「みんなに反対されることは,たいてい成功し,みんなが賛成することは,たいがい失敗する」という命題の意味を,自分の頭で,考えてみましょう。


常識を覆す著者の名言の数々


本書には,先に紹介した「みんなに反対されることは,たいてい成功し,みんなが賛成することは,たいがい失敗する」というような常識とか,社会通念とかを覆す名言が,このほかにも,次々と飛び出します。私が注目したものだけでも,以下のように,従来の常識が次々と覆されていきます。

1.大規模店が隆盛をみせるなか、小型店が大型店と競争して成り立つはずがない。
--でも、本当にそうなのか。商店街の小型店が競争力を失ったのは、本当はスーパーの進出という要因以前に、取り扱う商品が市場のニーズの変化に取り残されていたことや、生産性の低さが根本的な原因で、その問題を解決すれば、小型店と大型店は共存できるはずと、わたし(筆者)は考えました。

2.コンビニでの弁当やおにぎりの発売については、「そういうのは家でつくるのが常識だから売れるわけがない」とみんなにいわれました。
──本当にそうか。 弁当やおにぎりは、日本人の誰もが食べるからこそ、逆に大きな需要が見込まれるはずだと、わたし(筆者)は考えました。

3.セブン銀行についても、「収益源がATM手数料だけで成り立つはずがない」と否定論の嵐です。
──なぜそうなのか。わたし(筆者)は既存の銀行の延長上ではなく、二四時間営業のコンビニの店舗にATMが設置されれば、利便性は飛躍的に高まり、ニーズに応えることができるので経営は成り立つのではないかと単純明快にとらえました。

こんな調子で,世間の常識とか,社会通念とか,これまで誰も疑っていなかった考え方が次々と破壊されていきます。私は,本書を読みながら,指折り数えてみたのですが,合計で,17の常識,社会通念が,筆者によって覆されていると思っています。

みんさんも,本書を読んでみて,自分の常識がいくつ破壊されるか数えてみると興味深いと思います。